研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
22122007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
瀬原 淳子 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (60209038)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経堤細胞 / 心臓形成 / 心内膜 / 冠状動脈 / グリア / メタロプロテアーゼ / ADAM / TALEN |
研究実績の概要 |
ADAMファミリーに属する膜型メタロプロテアーゼは、膜貫通型の細胞間シグナル分子や細胞間接着因子の脂質二重層近傍での限定的な切断に関わる主たる酵素であることが知られる(Weber S and Safitig P, 2012)。 本研究では、神経-血管ワイヤリングにおけるADAMの役割と機能の解明を通じて、両細胞の移動や分化・神経軸索伸長や血管形成などに関与する細胞間シグナリングや細胞基質間接着の新たな制御機構の解明を目的とした。これまでに、主に分子遺伝学的な手法を用いて、ADAM19(メルトリンβ)が末梢神経系や神経堤細胞で発現し、心臓神経堤細胞に発現するADAM19が内皮細胞由来の心内膜組織の形成に必要であることや、神経筋接合部形成、グリア細胞の分化を介して神経再生に関与することを明らかにしてきた(Komatsu K et al., 2007;Wakatsuki S et al., 2009)。しかし、ADAM19が血管形成に関与しているかどうかは不明であった。 本研究の実績は、第一に、ADAM19欠損マウスが冠状動脈のパターニングに異常を示すことを見いだし、この遺伝子が神経系のみならず冠状動脈形成を何らかのメカニズムにより制御していることを示したことである。第二に、心臓神経堤細胞の挙動を調べ、生きた細胞として単離する目的で、分子遺伝学的手法を用いた心臓神経堤細胞の可視化を試み、それに成功したことである。その結果、神経堤細胞の心臓内への移動自体にはADAM19は関与していないことが確認された。神経-血管内皮細胞間相互作用におけるADAM19の作用機序を解明するために、血管および神経を可視化したゼブラフィッシュを用いてそれらの役割・機能を検討中であるが、第三の実績は、TALENとよばれる新しい技術を用いて、ADAM19欠損ゼブラフィッシュの作成に成功したことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、極めて低い確率(約1/7)の確率で生き延びるadam19ノックアウトマウスを用いて心エコーを実施し、それによってこの遺伝子欠損が、心室中隔欠損や弁形成の異常をもたらすだけでなく、心冠状動脈の走行に異常を来すことを明らかにできた。これは東京女子医大の冨田幸子博士、東京医科歯科大学の黒原一人博士との共同研究により実現できた研究である。 次にこれが生後もたらされる異常ではなく、確かに発生の問題であることを確かめるべく、14.5-18.5日胚のマウスを用いて検討した。そしてこの表現型と心神経堤細胞の挙動との関連を探るべく、分子遺伝学的手法を用いてこの細胞を可視化した。具体的には、Rosa26tdTomatoマウスとWnt1-creマウス(Danielian PS et al., 1998)とを掛け合せ、神経堤細胞特異的に赤色蛍光tdTomatoで可視化できるマウスを作成し、これと ADAM19ノックアウト(KO)マウス( Kurohara K et al., 2004) をかけ合わせて得た。 Wnt1-creマウスは、東京医科歯科大学の井関祥子博士より供与を受けたものである。それを用いて現在、神経堤細胞の挙動と心冠状動脈走行異常との関連性を探ろうとしているが、まず、神経堤細胞の心臓内への移動自体にはADAM19が関与していないことを確認することができた。 一方、TALEN技術を用いたADAM19ノックアウトゼブラフィッシュの作成を行った。これは、理化学研究所川原敦雄博士の技術指導を受け成功したものである。現在、このノックアウトゼブラフィッシュとGFPあるいはnRFPにより血管が可視化されたゼブラフィッシュとを掛け合せ中であり、血管形成におけるADAM19の役割を検討中である。これらにより計画された研究は概ね実施できていると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、これまでにtdTomatoにより蛍光でラベルされた神経堤細胞を、ADAM19ノックアウトマウスおよび野生型マウス胚の心臓から、 FACS により単離し、遺伝子発現を比較する。この細胞数は極めて少ないことから、多くのマウスの心臓から多くの心神経堤細胞を単離し、microarrayにより、あるいは転写産物のシークエンスにより、その遺伝子発現を比較する予定である。 また、遺伝子発現だけでなく、プロテアーゼとしての機能の解析を行う。これに関しては現在、京都大学薬学研究科の石濱泰博士と共同で、心神経堤細胞あるいは後根神経節細胞のプロテオーム解析を行うべく、準備をしている。特に、膜蛋白質発現(プロテオーム解析)を調べ、基質候補を抽出する。それらが生理的基質かどうか検討するには、候補蛋白質のADAM19依存的な切断能の検証、Western Blotによる個体内での切断活性の検証、心内皮における遺伝子発現やリン酸化など細胞間シグナリングへの影響を調べる必要がある。基質蛋白質の心臓における役割が不明でKOマウスが入手できれば、その表現型を調べる。 さらに、ADAM19欠損ゼブラフィッシュをA01望月グループにより作成された神経-血管可視化ゼブラフィッシュと掛け合せ、ADAM19欠損の神経-血管ワイヤリングへの影響を詳細に調べる。次に神経特異的ADAM19・ドミナントネガティブ型ADAM19を発現し効果を検討する。マウスを用いて抽出した ADAMの基質候補をゼブラフィッシュ胚でアンチセンスモルフォリーノあるいは TALENによって欠損させ、神経-血管ワイヤリングにおける基質の役割を調べる。細胞系譜特異的に可溶型基質を発現し、表現型がレスキューできるかどうかを調べる。
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