研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
22122007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
瀬原 淳子 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (60209038)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 神経分化 / 神経堤細胞 / ADAMプロテアーゼ / グリア細胞 / 増殖因子 / ゼブラフィッシュ |
研究概要 |
ADAM ファミリーに属する膜型メタロプロテアーゼは、膜貫通型の細胞間シグナル分子や細胞間接着因子の脂質二重層近傍での限定的な切断(エクトドメインシェディング)に関わる主たる酵素である(Weber S and Safitig P, 2012)。我々は、神経-血管ワイヤリングにおけるADAMの役割と機能の解明を通じて、両細胞の移動や分化・神経軸索伸長や血管形成などに関与する細胞間シグナリングや細胞基質間接着の新たな制御機構の解明に取り組んできた。 (1)まず、心臓神経堤細胞に発現するADAM19が、神経堤細胞の分化制御に関わること、また心臓冠状動脈の正常な形成に必要であることから、後者の走行や正常な発達に、神経堤細胞の分化が必要であることを見いだした。現在、その分子機構の解明に取り組んでいる。 (2)また、ADAM19ノックアウトゼブラフィッシュを作成し、神経軸索のミエリン化を行うグリア細胞の生存に、 ADAM19が必要であることを見いだした。 ADAM19は、試験管内で膜型のグリア増殖因子の切断活性があることから、その活性との関連を追及している。 (3)さらに、血管形成と神経分化にはどのような関係があるのかを知る目的で、ゼブラフィッシュ中脳視覚統合領域である視蓋の形成をモデルとして、神経分化の制御機構を調べた。その結果、生きた胚の脳で神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞を可視化することによって、受精後ほぼ決まった時間に脳の基底側(外側)から細胞分裂を終えた神経細胞の産生が始まり、そこから脳室側(内側)に向けて産生された脳細胞が蓄積していくこと、神経分化には、グリア増殖因子―ErbBシグナルが必要であることを見いだした。さらに、ErbBインヒビターを用いて、神経前駆細胞の増殖には影響を与えず、神経の最終分化のみを抑制する条件を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)心臓神経堤細胞の研究においては、心臓神経堤細胞で発現するADAM19が心臓内膜組織形成にどのように関わっているかを調べる中で、神経堤細胞自身の分化に、このプロテアーゼが関与することを見いだした。それによって、血管の走行が影響を受けることも明らかにすることができた。 (2)これまで、 マウスADAM19が末梢神経再生に関与することを明らかにしていたが、そこでどのような役割・機能を担うかは不明であった。近年、TALENやCRISPR-Cas9を用いて、様々な細胞で遺伝子に変異を入れる手法が開発された。我々はその手法を用いて、ADAM19ノックアウトゼブラフィッシュを作成に成功した。そしてグリア細胞が可視化された生きたゼブラフィッシュトランスジェニックラインのライブイメージングによって、ADAM19の発現抑制あるいは ADAM19ノックアウトゼブラフィッシュでは、グリア細胞が軸索移動中にアポトーシスを起こして死ぬことを見いだした。 (3)グリア増殖因子には様々なアイソフォームがある。この中で、その機能が不明なものに、N末端側のエクソンTypeIIと呼ばれるアイソフォームがある。視蓋の神経分化の様子をライブイメージングを用いて調べてみると、神経を生み出す神経前駆細胞の分裂は、脳の基底膜側で起こること、それに対して、脳の脳室側で起こる分裂は、神経前駆細胞の数の増大に関わることがわかり、typeIIグリア増殖因子は、前者で必須であることがわかってきた。 以上のような点から、研究は概ね順調に行っていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、ADAMプロテアーゼと増殖因子の角度から、神経組織の形成と血管形成の関連を探ってきた。特に、冠状動脈形成における神経堤細胞の役割に関しては、世界的にみて、極めてオリジナリティーが高いと考えるが、具体的に、神経堤細胞が冠状動脈となる内皮細胞の挙動をどのように制御しているか、ということに関して、さらに研究を推進する必要がある。 また、現在関連した表現型を示す増殖因子遺伝子ノックアウトマウスを同定していることから、 ADAM19とその増殖因子の関わりを調べること、そして (2)の 神経軸索―グリア細胞の維持、という ADAM19の役割と、この表現型がどのような関連にあるかを調べたいと考えている。 一方、グリア増殖因子の研究に関しては、ノックアウトゼブラフィッシュを作成し、その役割をさらに検討するとともに、細胞増殖の頻度や時間などを計測することによって、前駆細胞の増殖制御が、脳の形や大きさをどのように制御しているかを検討する。さらに、それらの制御が、何らかの形で血管形成を制御している可能性を探る。
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