ヒト末梢組織において血管網と神経網が互いに情報のやりとりを行うことは、個体の恒常性維持や高度な情報処理にとって不可欠である。しかし脊椎動物では、血管もしくは神経のみを簡便かつ直接的に遺伝子操作し、その影響を個体レベルで解析することが困難であることから、血管-神経相互作用に介在する分子機構は十分に理解されていない。我々は、in vivoイメージングと分子遺伝学的解析に優れたショウジョウバエを用いて、血管(気管)-神経相互作用を支える分子群を網羅的に同定し、その作動原理をショウジョウバエと脊椎動物の双方をモデルとして明らかにすることを目指している。その第一段階として、本年度は、血管-気管の伴走構造形成の全ステップの可視化を行う為に、羽成虫原基(wing disc)に位置する感覚ニューロンと気管にそれぞれ異なるレポーター発色団を発現するトランスジェニック系統を作製した。このとき、Gal4/UASシステムを採用したのに対して、ニューロンの可視化はLexA-/VP16システムを採用することにより異なる発現制御を可能とした。さらに、気管に活性化型RacGTPaseを発現させることにより気管走行構造を変化させると、末梢ニューロンの軸索走行性も同様に変化することから、両者間に何らかの相互作用が存在することが示唆された。並行して、神経回路の維持を司る分子ネットワークを全ゲノムサイズで理解することを目指し、RNAiノックダウン法を用いてショウジョウバエ・ゲノム上にコードされる全1万3千遺伝子の神経機能を簡便に評価出来る解析システムの確立を開始した。
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