研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
22122009
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
太田 訓正 熊本大学, その他の研究科, 准教授 (90244128)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Tsukushi / niche / neuron / blood vessel / wiring |
研究実績の概要 |
私たちは、分泌型タンパク質Tsukushiの機能解析を行ってきた。今までの結果から、Tsukushiは細胞外領域において、シグナル伝達経路間の情報を仲介する因子として機能することが明らかになっている。2011年には、Tsukushiが動物種を超えて網膜幹・前駆細胞が局在する領域に発現すること、Wnt受容体であるFrizzled4に直接結合すること、そして全く新しいタイプのWntシグナル阻害因子として網膜幹・前駆細胞の増殖制御に関与していることをPNAS誌に報告した 。 平成24年度の本プロジェクトでは、Tsukushiがマウス成体脳において神経幹細胞が局在する側脳室下帯や海馬の歯状回に強く発現していることに注目して研究を進めた。まず、Tsukushi KOマウスでは、これら神経幹細胞が局在する側脳室下帯領域における脳神経幹細胞(B細胞)や神経前駆細胞(C細胞)の増殖が野生型マウスと比べて亢進していた。また、上衣細胞から分泌されるTsukushiタンパクは、脳神経幹細胞から伸びている神経突起の先端部に発現する受容体型タンパクVCAM1に結合することも明らかになった。さらに、Tsukushiは神経幹細胞ニッチ領域を伸長する血管の内皮細胞にも発現していることが、免疫染色法により明らかになった。 Tsukushi KOマウスの顕著な表現型として側脳室拡張が観察されるが、この表現型は神経特異的なcreマウス(Emx1, sox2, nestin)や血管特異的なcreマウス(Tie2, MS22)との掛け合わせによりレスキューされた。これらの結果は、Tsukushiが上衣細胞と血管内皮細胞から分泌され、中枢神経系の幹細胞ニッチ制御に関わる重要な分子であることを示唆するものである。 平成25年度には、血管内皮細胞から分泌されるTsukushiがどのような分子に結合するかを明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の主な研究目的は、Tsukushi KOマウスの顕著な表現型として観察される側脳室拡張が、神経特異的なcreマウス(Emx1, sox2, nestin)や血管特異的なcreマウス(Tie2, MS22)との掛け合わせによりレスキューされるか否かを調べることであった。Tsukushiを強制的に神経細胞や血管を構成する細胞に発現させると、これらの細胞から分泌されたTsukushiが側脳室の拡張を抑えたことから、Tsukushiが中枢神経系の幹細胞ニッチ制御に関わることを示す結果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までに、Tsukushiトランスジェニックマウスを神経系または血管系特異的に発現させることにより、Tsukushi KOマウスの典型的な表現型(脳室の拡張)をレスキューすることができた。そこで、25年度と26年度では、Cre #8211;loxPシステムを利用したTsukushiコンディショナルマウスを、血管系で特異的に働くCreドライバーマウス(Tie2-CreやMS22-Creなど)や神経系で特異的に働くCreドライバーマウス(nestin-CreやSox2-Creなど)と掛け合わせ、血管系または神経系特異的にTsukushi機能を操作する。時期・領域特異的なTsukushi欠損/過剰発現マウスの解析をとおして、Tsukushiによる神経幹細胞ニッチの形成や維持機構を明らかにする。 神経幹細胞ニッチは脳室下帯に存在するが、そこでは毛細血管から派生した“フラクトン”と呼ばれる細網構造が神経幹細胞の足場となっている。この領域でのTsukushiの発現も作製した抗体を用いて調べる。基底膜は“neurovascular unit”や“フラクトン”において重要な役割を担うことから、関口[A02-5]と連携し、Tsukushi蛋白質の基底膜への取り込みや基底膜構成分子との相互作用を解析する。逆に、Tsukushi -アルカリホスホターゼ融合蛋白質がアストロサイトや血管内皮細胞を認識した場合には、標的細胞をTsukushi 蛋白質の存在下で培養し、増殖・分化などへの影響を調べる。
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