計画研究
神経幹細胞は、初めに盛んに増殖して細胞数を増やすが、やがて非対称分裂を繰り返していろいろな種類のニューロンを産生する。ニューロン産生が終わると、神経幹細胞は最後にアストロサイトに分化する。このように、神経幹細胞は時間とともに性質を変えて多彩な細胞を産生し、脳神経系の多様性形成に大きく貢献するが、この経時的変化を制御する分子機構はよく1わかっていない。発生の進行とともに発現が変化する遺伝子を探索した結果、ピストンH3K7メチル化酵素であるESETを同定した。この因子は、9.5日胚の神経幹細胞に強く発現するが、発生の進行とともに減少し、17.5胚の神経幹細胞にはきわめて少量しか発現していなかった。ESETのプロモーターを解析したところ、Hes1の結合部位が多数あり、Hes1によって発現が徐々に低下することが示唆された。神経発生におけるESETの機能を調べるために、ESET floxマウスとEmx2-creマウスを交配して前脳特異的ESET欠損マウス(ESET cKOマウス)を作製した。マイクロアレー解析から、ESET欠損によって、多くの遺伝子発現に変化が見られた。特に、ニューロンの分化に関わる多くの遺伝子発現が低下しているのに対して、グリア細胞分化に関わる多くの遺伝子発現が増加した。また、本来、脳に発現しない遺伝子群が強く発現していた。神経発生におけるESET欠損の影響を調べたところ、初期に分化するニューロンの形成が強く阻害されていたが、後期に分化するニューロンの形成には大きな影響は見られなかった。しかし、アストロサイトの形成が正常よりも早く起こり、正常よりも増加していた。以上から、ESETは徐々に発現低下することによって、ニューロン形成からアストロサイト形成への移行のタイミングを制御すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
幹細胞の多様性形成を制御する因子として新たにESETの同定に成功した。ESET欠損マウスの解析から、この因子はニューロン形成からアストロサイト形成への移行のタイミングを制御することがわかった。さらに、プロモーター解析からESETの発現はHes1によって制御されていることが強く示唆された。今後、Hes1による発現制御機構がわかれば、幹細胞多様性形成機構の一端が解明されたことになり、研究は順調に進展している。
ESETの発現がどのように制御されているのか、特に、Hes1やNgn2の発現振動との関係を明らかにしていきたい。また、幹細胞多様性形成に重要な役割を担うNotchシグナルのリガンドであるD111の発現動態を明らかにし、異なる細胞を生み出す分子機構の理解に迫りたい。研究計画の変更や問題点等は特に無い。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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