計画研究
神経幹細胞は、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトを生み出す多分化能を持つ。3種類のbHLH型転写因子Ascl1, Hes1, Olig2は、それぞれニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの分化決定を制御する。しかし、プロニューラル因子Ascl1は、細胞周期の制御に関わる遺伝子群の発現を活性化して神経幹細胞の増殖を促進することが知られている。同様に、Hes1やOlig2はアストロサイトやオリゴデンドロサイトの分化制御以外に、神経幹細胞の増殖・維持にも働くことが知られている。しかし、これら分化決定因子として働くbHLH因子がこの相反する機能をどのように制御しているのかはよくわかっていない。本研究では、ルシフェラーゼとbHLH型転写因子の融合蛋白質を発現する遺伝子改変マウスを作製し、bHLH型転写因子の発現動態を解析した。その結果、神経幹細胞においてHes1、Ascl1蛋白質は2~3時間周期で、Olig2蛋白質は5~8時間周期で発現が増減(発現振動)していることが明らかになった。一方、ニューロン分化の際にはAscl1が、アストロサイト分化の際にはHes1が、オリゴデンドロサイト分化の際にはOlig2がそれぞれ持続発現していた。したがって、同一因子が発現動態を変えることによって神経幹細胞の増殖を活性化したり、特定の種類の細胞に分化誘導することが示唆された。これらの結果から、多分化能の分子実体は複数の分化決定因子がお互いに拮抗しながら発現が振動する状態であることが示された。
1: 当初の計画以上に進展している
神経幹細胞における分化決定因子の発現のタイムラプスイメージングに成功し、振動していることを世界で初めて示した。このことから、神経幹細胞が持つ多分化能の分子実体は複数の分化決定因子がお互いに拮抗しながら発現が振動する状態であることがわかった。この結果は、分化決定因子が分化決定だけでなく、神経幹細胞の増殖・維持にも働く分子機構についても明らかにした。これらの結果はScience誌にResearch Articleとして発表し、神経科学の分野の研究発展に大きな貢献をした。
Ascl1やHes1の発現が振動するときと持続するときで、下流の遺伝子発現がどのように変化するのかをタイムラプスイメージング法によって解析する。特に、神経分化に働くTbr2やNeuroD1、神経幹細胞の分化能に影響を与えるESET、および細胞周期を制御する遺伝子群の発現動態を解析する。これらの解析から、神経幹細胞が持つ多様性形成能の分子実体を明らかにする。
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