研究領域 | 神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築 |
研究課題/領域番号 |
22123003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 由季子 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (70252525)
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研究分担者 |
今吉 格 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (60543296)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / ニューロンサブタイプ / クロマチン状態 |
研究実績の概要 |
大脳新皮質は多くの異なる種類のニューロンとグリア細胞から構成され、それらが正確に配置されることで機能する。脳発生過程において、各種ニューロンとグリアは共通の前駆細胞(神経系前駆細胞)から決まった順序で次々と産み出される。本年度は(1)神経系前駆細胞が発生早期にニューロン分化する能力を持つために重要な遺伝子の探索、と(2)神経系前駆細胞がニューロン分化するかどうかを制御するメカニズムの解析、について報告する。 (1)大脳新皮質神経系前駆細胞において、プロニューラル転写因子Ncurog1,Ncurog2の発現上昇がニューロン分化運命決定に重要である事が示されている。しかしこれらがなぜ発生早期にのみ発現出来るかについては明らかではなかった。我々は最近、発生早期の神経系前駆細胞においてHMGA1,HMGA2というクロマチン結合分子が高いレベルで発現しており、これらがクロマチン状態をグローバルに脱凝集させると共にニューロン分化能を与えることを報告した。本年度は更にHMGA1,HMGA2の下流で発現する遺伝子のうちニューロン分化に関わるものを探索し、複数新たに固定した。 (2)大脳神経系前駆細胞が増殖する際に、未分化細胞と分化細胞をバランスよく産生する必要がある。ニューロン分化期の神経系前駆細胞はカノニカルWnt経路によりニューロン分化が促進されることを以前に報告したが(Hirabayashi et al. 2004)、この経路がうまく調節されて分化させ過ぎないことが必要であると予想された。本年度我々は、Wnt経路を抑制する因子TCF3が未分化な神経系前駆細胞に発現しており、分化のブレーキとして働いている事、また十分な分化誘導刺激が入るとTCF3の発現が低下することを示した(Kuwahara et al. 2014 in press)。従ってこのような「ゲート機構」が存在する事で過剰なニューロン分化が抑えられ、適切なバランスで神経系前駆細胞の運命が制御されていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初、神経系前駆細胞の分化ポテンシャルを制御する因子の候補としてHMGAタンパク質を同定していたが、そのターゲットを含む具体的な分子機能については全く分かっていなかった。計画通り我々はHMGA1,HMGA2のクロマチン状態をグローバルに脱凝集させる効果とニューロン分化能を与える性質について明らかにし、論文報告した(Kishi et al.Nat Neurosci.2012)。更にそれに加え、HMGA1,HMGA2の下流でニューロン分化能を獲得するために重要なエフェクターを同定することに成功した。発生早期の大脳新皮質神経系前駆細胞において高いレベルで発現しており、かつHMGA2過剰発現で発現レベルが上昇する遺伝子群を同定し、その中でニューロン分化能を促進する活性を持つものを調べたところ、IMP2を新規に同定した(Fujii et al.Genes to Cells 2013)。IMP2は過剰発現で後期神経系前駆細胞のニューロン分化能を促進し、アストロサイト分化を抑制した。逆にIMP2をノックダウンすると早期神経系前駆細胞のニューロン分化能が抑制され、アストロサイト分化が促進した。今年度は更に別のHMGA2ターゲット遺伝子がニューロン分化に関わることを示した。以上の結果はHMGA2と同様に、下流で発現制御される因子群も発生時期依存的な神経系前駆細胞の運命制御に関わっていることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
HMGAのエフェクター分子について更に探索し、ニューロン分化能を規程するメカニズムの全体像の理解に近づける。また、細胞周期制御因子やWnt経路因子の分化運命への影響についても引き続き検討する。
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