計画研究
脳は、神経幹細胞が非常に様々な種類の細胞を必要な数、必要な場所で産む事で作られる。例えば大脳新皮質の神経幹細胞は、まず6層→5層→4層→2/3層のニューロンを産み出し(ニューロン分化期)、次にアストロサイトを産む(グリア分化期)。それでは、時間情報に従って神経幹細胞の分化運命はいかなるメカニズムで制御されているのだろうか?我々はこれまでに、ポリコーム群因子(PcG)が大脳皮質発生の後期においてニューロン分化誘導遺伝子Neurog1等のクロマチンを抑制状態にし、ニューロン分化期を終了させることを報告した(Hirabayashi et al. Neuron 2009)。そこで、PcGが神経幹細胞のニューロン分化期中の運命転換にも関与している可能性を検討した。5層の皮質外投射ニューロンの運命決定にはFezf2という転写因子が重要な役割を果たしている。我々は、各発生時期の大脳新皮質から神経幹細胞を単離し、Fezf2遺伝子座においてPcGにより修飾されるヒストンH3K27me3量を調べた所、丁度Fezf2の転写が終了する時期(ニューロン分化期後期)にH3K27me3量が上昇することを見いだした。またPcGの重要な構成因子Ring1Bノックアウトを行ったところニューロン分化期後期におけるFezf2の発現低下が抑制された。従って、PcGがFezf2を時期依存的に抑制していることが示唆された。更にRing1Bノックアウトにより5層皮質外投射ニューロン産生期が延長することが明らかになった。従って、PcGがちょうど良いタイミングでFezf2の発現を抑制することで、5層皮質外投射ニューロンの産生が終了することが示された(Morimoto-Suzki et al. Development 2014)。
2: おおむね順調に進展している
神経幹細胞の時期依存的な運命転換において、ポリコーム群複合体PcGが果たす役割を新たに明らかにした。特に、これまで示して来たニューロン分化期からグリア分化期への転換点における役割(Hirabayashi et al. Neuron 2009)のみならず、ニューロン分化期中のニューロンサブタイプの転換においてもPcGが重要であることを示した(Morimoto-Suzki et al. Development 2014)ことによって、PcGが連続的に異なる運命転換を司ることが示された。
連続的に異なる運命転換に共通にポリコーム群複合体が関わることが明らかになったことから、「いかにしてポリコームが特定の時期に特定の遺伝子座を抑制するのか」が主要な課題として浮かび上がる。この課題は、幹細胞がいかなる分化ポテンシャルを持つかを決める中心的なポイントであり、今後Neurog1, Fezf2などをモデル遺伝子座としてポリコームのターゲット選択性と時期依存性を検討する予定である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 11件) 図書 (3件) 備考 (1件)
Nat. Neurosci.
巻: 18(5) ページ: 657-65
10.1038/nn.3989.
Genes Cells.
巻: 20 ページ: 108/120
10.1111/gtc.12205.
Stem Cells
巻: 32 ページ: 2983/97
10.1002/stem.1787.
Development.
巻: 141 ページ: 4343/4353
10.1242/dev.112276.
Plos One.
巻: 9
10.1371/journal.pone.0094408
http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~molbio/