研究領域 | 神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築 |
研究課題/領域番号 |
22123005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 亮 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30146708)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 組織細胞 / 神経科学 / 生体分子 / 脳・神経 / 発生・分化 |
研究実績の概要 |
多種の細胞外メタロプロテアーゼを負に制御する膜アンカー型糖タンパク質Reckは、マウス胎児の神経前駆細胞および血管細胞に高発現しており、Reck欠損は、これらの組織の発生に顕著な異常を伴う胎生致死形質もたらす。本研究課題では、Reckの作用機構解明、種々Reck変異マウスの表現型解析などを進めることにより、神経系および血管系組織における細胞表面タンパク質分解の制御が大脳皮質構築に与える影響に洞察を加えることを目的としている。今年度は、アデノウイルス・ベクターを用いて培養細胞でRECKを急性発現させる系(Ad-RECK)を確立し、ある種の細胞では、この処理によって細胞増殖停止(replicative senescence)が起こること、また、その際にSKP2(E3ユビキチン・リガーゼの基質特異的サブユニット)の発現低下と、それに伴うp27の増加(分解の減弱)が誘導されることを見出した(吉田ら2012)。また、条件的Reck変異マウス(Reck-flox)を樹立する過程で、その副産物として成長可能なReck低発現マウスが得られ、このマウスにおいて、(1)四肢末端背側に生ずる角様突起、(2)右側でより重篤な前肢芽後方形成不全、などの興味深い表現型が見出された。ことに後者は、Wnt7a欠損マウスの表現型と類似しているが、野生型マウス胎児ではWnt7aは肢芽背側上皮から産生されるのに対し、Reckは肢芽近位前側の間葉組織で高い発現が見られ、また、変異マウスでは、肢芽背側上皮の顕著な脆弱性が見られることから、Reckが間葉-上皮相互作用を介して肢芽背側上皮の機能維持に関わるという可能性が示唆された(山本ら2012)。この研究には、新たに樹立されたReck-floxマウスやReck-CreERT2マウスも利用された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の成果は、大脳皮質構築におけるReckの作用を理解する上で参考となる知見を与えている。例えば、細胞周期への作用、間葉-上皮相互作用などは、既に知られていたMMP制御や細胞運動における作用に加え、新たな視点を与えるものである。また、上記の研究からは、今後の研究の発展に役立つ有用な基盤技術や材料が得られた。例えば、Ad-RECKの系は、RECK遺伝子を細胞に効率良く導入し同調的に発現させることを可能にする技術であり、今後、細胞レベルあるいは個体レベルでの様々な実験において威力を発揮すると考えられる。新たに樹立されたReck変異マウスは、従来のReck欠損マウスでは解析できなかった、発生後期から成体におけるReckの役割や特定の臓器におけるReckの役割を知る上で有用であり利用範囲は広い。また、Reck-CreERT2マウスは、Reck発現細胞における他の遺伝子の機能を明らかにする上で有用である。
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今後の研究の推進方策 |
プロテアーゼ制御因子であるRECKの、より直接的な効果を知るために、Reck欠損あるいは発現誘導後に変動するタンパク質のプロテオーム解析を進める。また、大脳皮質構築や脳高次機能発現におけるRECKの役割に焦点を絞った解析を進めるために、Reck-floxマウスをReck-CreERT2(任意の時期に欠損誘導)、Nestin-Cre(神経前駆細胞特異的に欠損誘導)、Tie2-Cre(血管内皮特異的に欠損誘導)、Sm22-Cre(血管平滑筋特異的に欠損誘導)などのCre発現マウスと交配し、時期あるいは組織特異的なReck欠損の影響を、形態、組織、行動など様々なレベルにおいて解析する。
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