研究領域 | 神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築 |
研究課題/領域番号 |
22123005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 亮 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30146708)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 組織細胞 / 神経科学 / 生体分子 / 脳・神経 / 発生・分化 |
研究概要 |
Reck遺伝子は神経前駆細胞で豊富に発現されており、ADAM10によるNotchリガンドのshedding抑制を介してNotchシグナルによる神経分化抑制と分裂能維持に関与することが以前の研究から示唆されている。しかし、Reck欠損マウスが胎生致死形質を示すことから、胎生中期以降の脳発生におけるReckの役割については未解明であった。本領域では、条件的ノックアウトマウスを用いて、この問題にアプローチすることを目的としている。意外なことに、神経前駆細胞特異的Reck欠損マウス(Reck fl/-;Nestin-Cre)は、一見正常で稔性を持つことが判明した。そこで、この変異マウスおよびコントロールマウス(Reck +/+;Nestin-Cre)の誕生直後と8週齢における大脳皮質構造を、矢状断組織像を中心に比較し、差異を検索した。その結果、変異体新生仔脳の特に体性感覚野において、中間層からサブプレートにかけて細胞数の減少、皮質板中のCux1陽性細胞(intermediate progenitor)の減少、皮質全層においてGFAP陽性細胞の増加、Tbr1陽性細胞およびCtip2陽性細胞の減少などが観察された。8週齢個体の体性感覚野においては、Nissl法で強染色される細胞の出現、特にV層で顕著な細胞数の減少、I~III層におけるGFAP陽性細胞の増加、Cux1陽性細胞の局在部位のより深い層への拡大、V層におけるCtip2陽性細胞の減少などが観察された。特に、投射神経細胞が多く含まれるV層(内錐体細胞層)で目立った異常が見られることは興味深い。一方、第二の実験系として、血管内皮細胞選択的Reck欠損マウス(Reck fl/-;Tie2-Cre)を作成したところ、誕生直前に脳内出血を伴って死亡し、脳血管および大脳皮質の構築に顕著な異常が見られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度から2年間の計画に挙げた4つの課題 [(1)神経前駆細胞Reckの大脳皮質構築における役割、(2) 血管内皮細胞Reckの大脳皮質構築における役割、(3) Reck低下マウスの行動・学習能力の検討、(4) Reck感受性タンパク質の同定と解析] の内、1、2については、当初計画した実験をほぼ終了し、新たな課題が見えて来た。(3)についても既に実験を終了し、結果の解析を進めつつある。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Reck欠損の影響: Nestin-Creをドライバーとする条件的Reck欠損マウスにおいて、体性感覚野のV層に目立った異常が見られたことから、projection neuronsの減少や機能異常の可能性を組織、生理、行動などの側面から検討する。 (2) 細胞レベルでのメカニズム: Reck欠損が大脳新皮質構築の異常をもたらす細胞メカニズムに洞察を加えるため、in vivo electroporationにより神経前駆細胞のReck遺伝子をノックダウン、あるいは再発現させると同時に蛍光タンパク質で標識し、その挙動を解析する。 (3) 分子レベルでのメカニズム: Reck欠損が大脳新皮質の細胞外マトリックスタンパク質、特にocc1/Fstl1関連タンパク質(Testican-2, Sparc, SC1など)の分布に与える影響を免疫組織化学的手法により解析する。
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