計画研究
発生期に神経軸索は誘引・反発分子の作用により特異的な標的へ誘導される。大脳皮質は、各層のニューロンが異なる入出力を持ち、複雑なネットワークを作る。これまでの研究で大脳皮質軸索の形成を制御する分子が報告されているが、多様性を生み出す仕組みは未解明である。そこで、本研究では、シグナル分子、受容体、細胞外マトリックスなどの観点から神経回路構築を研究し、大脳皮質の多様性獲得の分子機構を解明することを目的とする。ヘパラン硫酸は、プロテオグリカンに共有結合した直鎖状の糖鎖であり、多種類のシグナル分子と相互作用し、細胞の増殖、分化、移動、軸索ガイダンス、シナプス形成などを制御する。我々は、ヘパラン硫酸の6位の硫酸基を選択的に脱硫酸化し、ヘパラン硫酸糖鎖の微細構造を変化させるスルファターゼSulf1/Sulf2を発見し、軸索ガイダンスにおける役割を検討してきた。Sulf1/Sulf2ダブルノックアウトマウスは、皮質脊髄路に走行に異常を持ち、これがヘパラン硫酸糖鎖の過剰硫酸化による軸索ガイダンス蛋白の局在変化と関連していることを明らかにした。従って、Sulf1/Sulf2が局所的に軸索誘導シグナルを調節することが正常な皮質脊髄路の形成に必須だと考えられる。これまで用いてきた純系マウス系統のダブルノックアウトマウスは生後直ぐに死亡するが、ICR系統と交雑した遺伝的背景では成獣まで生存することが分かった。そこで、成獣ダブルノックアウトマウスの皮質脊髄路を調べたところ、胎児脳と同じような表現型が見られ、脊髄に到達する繊維が減少していた。また、正中交差の異常がありそうだったので、今後詳細な解析が必要である。一方、Slit2ノックアウトマウスで、これまで報告のない皮質脊髄路異常が観察されたため、この点についても検討を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
大脳皮質の出力の内、最も長い軸索を持つ皮質脊髄路の形成に、ヘパラン硫酸糖鎖の局所的な硫酸化修飾が必要なことを明らかにすることができた。このような軸索ガイダンス制御機構は今までに報告がなく、重要な知見であると考えられる。また、これまで得ることができなかった、成獣Sulf1/Sulf2ダブルノックアウトマウスを作製することができるようになったため、成獣脳を用いた精細な神経回路解析を進める準備ができた。更に、Slit2ノックアウトマウスにおける新しい皮質脊髄路異常を見つけることができ、大脳皮質形成の多様性を解くきっかけになると考えられる。
Sulf1/Sulf2ダブルノックアウトマウスは、純系遺伝子背景では生後直ぐに致死になるため、主に胎児期の異常を解析してきたが、最近になり、混合遺伝子背景では成獣まで成育することが分かった。成獣脳で解析することにより、胎児期の異常が残存するかどうかを確かめられるだけではなく、精細な解剖学的観察が可能となる。そこで、Sulf1/Sulf2ダブルノックアウト成獣マウスを用いて、皮質脊髄路異常の詳細、特に胎児期・新生児期に観察できなかった正中交差異常の有無などを調べる。さらに、他の神経回路、細胞構築などについても検討する予定である。Sulf1は前頭皮質に発現が多く、高次脳機能との関連も示唆される。そこで、霊長類脳における発現を調べるとともに、Sulf1ノックアウトマウスにおける皮質ニューロンの形態異常についても調べる
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Scientific reports
巻: 3 ページ: 1402
doi: 10.1038/srep01402
Journal of Biological Chemistry
巻: 287 ページ: 9579-9590
doi: 10.1074/jbc.M111.290262
Journal of Experimental Medicine
巻: 209 ページ: 925-933
doi: 10.1084/jem.20112012
http://www.md.tsukuba.ac.jp/duo/molneurobiol/