研究領域 | 神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築 |
研究課題/領域番号 |
22123008
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
三品 昌美 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (80144351)
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研究分担者 |
植村 健 信州大学, 医学部, 講師 (00372368)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳神経疾患 / 遺伝子 / 大脳新皮質 / シナプス / 精神遅滞 |
研究実績の概要 |
大脳新皮質の神経細胞ネットワークの形成機構を明らかにすることにより、新学術領域研究「神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築」に貢献することを目的に、以下の成果を挙げた。非症候性 X染色体連鎖精神遅滞の原因遺伝子IL1-receptor accessory protein-like 1 (IL1RAPL1)が大脳皮質神経細胞のシナプス形成を制御していることを明らかにし、IL1RAPL1の欠損は神経ネットワーク形成の不全を引き起こし、精神遅滞と自閉症の引き金となっていると推定した。IL1RAPL1は脳に特異的に発現し、免疫系のインターロイキン1(IL-1)の受容体としては機能しない。今回、構造的に類似したIL1受容体ファミリーの全てについてシナプス形成誘導能を検定した。その結果、免疫・炎症反応に重要な役割を担っているIL-1受容体複合体を構成するIL-1 receptor accessory protein (IL-1RAcP)がシナプス前部のPTPδと相互作用し、シナプス間接着分子として働くことにより大脳皮質神経細胞の興奮性シナプス形成を制御していることを明らかにした。脳に発現するIL-1RAcPは末梢と同じIL-1RAcPとC末端が異なるIL-1RAcPbのアイソフォームが存在し、両者ともシナプス前部形成誘導能は示したが、IL-1RAcPbのみがシナプス後部形成誘導能も示した。さらに、免疫グロブリン様ドメインに存在するmini-exonでコードされる数アミノ酸の挿入がシナプス形成能に必須であることを見いだした。したがって、IL-1RAcPは免疫・炎症反応と脳神経細胞のシナプス形成に重要な役割を果たしていると考えられ、免疫系と神経系との間に分子的連関が見いだされたことは興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IL1-receptor accessory protein-like 1 (IL1RAPL1) は非症候性 X染色体連鎖精神遅滞の原因遺伝子として同定され、その後、自閉症家系においてもその遺伝子変異が報告されている。我々は、シナプス後部のIL1RAPL1がシナプス前部の PTPδと相互作用することにより、大脳皮質神経細胞のシナプス形成を制御していることが明らかにし、IL1RAPL1の欠損は神経ネットワーク形成の不全を引き起こし、精神遅滞と自閉症の引き金となっていることを提唱した(J. Neurosci., 2011)。さらに、免疫・炎症反応に重要な役割を担っているIL-1受容体複合体を構成するIL-1 receptor accessory protein (IL-1RAcP)がシナプス前部のPTPδと相互作用し、シナプス間接着分子として働くことにより大脳皮質神経細胞の興奮性シナプス形成を制御していることを明らかにした(J. Neurosci., 2012)。また、小脳プルキニエ細胞のシナプス後部に局在するグルタミン酸受容体GluRδ2 がシナプス前部のβ-NeurexinとCbln1を介して結合することによりシナプス形成を誘導することを解明した(Cell, 2010)。さらに、シナプス形成を制御する三者複合体の量比を解析し、GluRδ2 がNeurexinの4量体化を促し、シナプス形成を誘導することを明らかにした(J. Neurosci., 2012)。このように、脳神経細胞ネットワーク形成の鍵となるシナプス形成のメカニズム解明を大きく進展させ、本新学術領域研究「神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築」に貢献することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本新学術領域研究「神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築」に関する中間評価コメントは「今後、発達障害原因遺伝子のシナプス形成機構への関与の発見や霊長類の視覚野特異的な遺伝子発現の解析などの研究成果が、個別研究から発展して本領域の核となる仕事に発展すれば、他の脳科学領域への波及効果も大きいと思われる。」であった。中間評価コメントに従い、大脳神経細胞ネットワーク形成の鍵となるシナプス形成のメカニズム解明を推進し、精神疾患との関係が示されているシナプス膜分子について大脳新皮質におけるシナプス形成誘導活性を検定する。さらに、精神疾患モデル動物としてIL1RAPL1欠損マウスを関連精神疾患研究者に提供するとともに、その表現系解析を行動解析の専門研究者と共同で進める。精神遅滞と自閉症の原因遺伝子IL1RAPL1欠損マウスにおいて大脳新皮質におけるシナプス数の減少は約20%であることから、大脳新皮質のシナプス形成にはIL1RAPL1以外の分子が関与していると考えられる。IL1RAPL1とtrans-synapticに相互作用するシナプス前部の受容体型チロシン脱リン酸化酵素 PTPδはLAR, PTPσと分子群を構成し多様なスプライトバリアントが存在している。これらのPTP分子群とNeurexin分子群とが大脳シナプス前部における主要なシナプス形成分子であると推定され、我々が開発したcross-linkerを用いたシナプス形成分子のunbiased screening法を発展させることによりこれらの分子群と結合するシナプス後部分子群を明らかにし、これらの分子群が大脳シナプス形成を誘導する機能を明らかにする。
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