計画研究
本研究は、線虫の記憶・学習行動である温度走性の主要神経回路における神経活動制御の分子メカニズムを解明し、行動を制御する神経コードの分子レベルでの解読を目的とする。温度感知・記憶細胞AFDが温度刺激を受けると、小胞性グルタミン酸トランスポーターVGLUTに依存したグルタミン酸がAFDのシナプス後介在細胞AIYに発現する抑制性グルタミン酸受容体GLC-3によって受容され、AIYの活動性が抑制されることがわかった。また、VGLUTに依存したグルタミン酸が第二の温度感知・記憶細胞であるAWCから放出されてAWCのシナプス後介在細胞AIYに働くと、AIYの活動性が上昇することが示唆された。従って、同じVGLUT依存的なグルタミン酸放出は、異なる感覚細胞(AFDとAWC)から、同一の介在細胞AIYに対して相反する神経シグナルを伝達していることが明らかになった(Ohnishi et al.,EMBOJ,2011)。nj24変異体は、温度勾配上において、過去に飼育されていた温度より約1℃高い温度へ移動する異常を示す。原因遺伝子は、無脊椎動物において、ギャップ結合を形成するイネキシン(INX-4)をコードすることがわかった。この変異体の異常は、INX-4をAFDに発現させることにより回復した。また、INX-4は、AFDのシナプス周辺に局在することもわかった。inx-4変異体のカルシウムイメージングを行ったところ、温度に対する応答性は、AFDでは野生型と差が見られなかったが、AIYでは野生型よりも高い傾向が見られた(Emmei et al., unpublished)。AIYの応答性が高いと高温への移動を駆動する(Kuhara et al., Nat.Commun., 2011)。これらの結果に基づき、INX-4が構成するギャップ結合の役割を追求する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、線虫の記憶・学習行動である温度走性の主要神経回路における神経活動制御の分子メカニズムを解明し、行動を制御する神経コードの分子レベルで解読することである。現在までに、温度感知・記憶細胞と、そのシナプス後介在細胞との制御関係について新しい知見を得ることができ、二報の論文として発表できた(Ohnishi et al,2011;Kuhara et al.,2011)。したがって本研究は、おおむね順調に進展していると評価した。
本研究では、ギャップ結合の構成分子の異常により、温度記憶学習行動が異常になることを明らかにし、異常になったギャップ結合構成分子は、通常は、温度感知・記憶細胞のシナプス周辺に局在することを突き止めた。神経伝達物質を介して情報を伝達するシナプス結合と比較して、ギャップ結合の生物学的意義については、未だ不明な点が多い。そこで、今後は、ギャップ結合の神経回路制御について新しい知見を得るために、詳細に解析を行う予定である。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
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