計画研究
本研究では、線虫の温度に対する記憶・学習行動である温度走性の主要神経回路における神経活動制御の分子メカニズムを解明し、行動を制御する神経コードの分子レベルでの解読を目指した。平成24年度は、温度走性神経回路のAFD-AIYとAIY-RIAの情報伝達機構について、GCaMP3を用いたカルシウムイメージングにより興味深い知見が得られた。AFDは温度情報刺激に対し、飼育温度より2-3℃低い温度から、カルシウム濃度を上げる応答をする。このカルシウム濃度の上昇は、AIY介在ニューロンでも観察された。興味深いことに、AIYニューロンのカルシウム濃度上昇は、AFDのカルシウム濃度が上昇するより1-2℃低い温度から検出された。この結果は、AFDは、温度情報をAIYへ伝えるが、AFD自身の温度刺激依存カルシウム濃度上昇を抑制する機構があることを示唆した。また、AIYニューロンにおけるカルシウム濃度の上昇は、AIYニューロンのポストシナプティックニューロンであるRIAのカルシウム濃度を低下させることがわかった。RIAニューロンは、温度上昇や温度低下の刺激がなく一定温度下において、stochasticなカルシウム濃度上昇を起こしていることも明らかになったため、AIYからの温度情報刺激がRIAに伝達されることにより、RIAの活動が抑制されることが考えられる。AFDで機能することがわかっている分子の突然変異体におけるAFDやAIYのカルシウムイメージングにより、CAMKIやCREBは、AFDにおけるシナプスを介さない温度記憶に関与し、CAMKIIはAFDからAIYへ情報を伝えるシナプスにおいて機能することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、線虫の記憶・学習行動である温度走性の主要神経回路における神経活動制御の分子メカニズムを解明し、行動を制御する神経コードの分子レベルで解読することである。今年度の成果により、CREBやCaMKが関与する細胞自立的な記憶メカニズムが存在することを実験的に初めて明らかにし、シナプスを介して情報がどのように伝達されるかについての分子機構の一端が明らかになったと思われる。
AIYの下流に存在し、蛇行運動の舵取りとなる頭部運動ニューロン群RMDとSMDを制御すると考えられるRIAニューロンの解析を詳細に行う。これまでに、RIAの軸索の異なる場所においてカルシウム濃度変化が局所的に起こっていることを捉えることに成功した(Kobayashi et al., unpublished)。そこで、いろいろな突然変異体を用いて、温度変化に依存して、RIAがAFD-AIYからのシグナルを受けて、どのように神経活動を変化させるかをイメージングにより検証する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件) 図書 (2件)
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