計画研究
本研究は、記憶・学習行動である線虫温度走性の主要神経回路における神経活動制御の分子メカニズムを解明し、行動を制御する神経コードの分子レべルでの解読を目指した。これまでに、AFD感覚ニューロンは、飼育温度を受容するだけでなく、飼育温度を細胞自律的、シナプス非依存的に記憶していることが明らかになり、温度記憶情報をAIY介在ニューロンに伝達していることが示唆された。AIY介在ニューロンの下流に存在し、蛇行運動の舵取りとなる頭部運動ニューロン群RMDとSMDを制御していると考えられるRIA介在ニューロンのカルシウムイメージングを詳細に行ったところ、温度一定の条件でも、RIAの軸索は局所的に確率的なカルシウム濃度情報を示すことがわかった。興味深いことに、温度上昇刺激を与えると、RIAの確率的活動が、飼育温度付近で抑圧されることがわかった。温度走性回路を構成する神経細胞の機能不全を起こしている突然変異体を用いたイメージング解析の結果、この飼育温度依存的神経活動の抑圧は、AFDによる温度受容および温度記憶に依存しており、AFDの下流に存在するAIY介在ニューロンからの情報伝達に依存することもわかった。また、RIAの機能を欠損する変異体では、RIAの軸索内の局所的活動の頻度が低下し、局所間の活動が同期することが見出された。これら一連のカルシウムイメージングの結果と、先行研究によって見出されている線虫の背腹運動を制御するコマンド介在ニューロンに支配されている運動回路における知見を総合して、線虫の首ふり運動と、身体全体の蛇行運動に関する外部刺激依存的な神経回路制御の全容を説明できる神経回路モデルを提唱した(Kobayashi et al., in preparation)。
1: 当初の計画以上に進展している
AFD感覚ニューロンの飼育温度記憶に依存して、RIA介在ニューロンの確率的活動が抑制されることを突き止めた。302個のニューロンから構成される線虫神経回路全体のconnectivityを調べてみた結果、このRIA介在ニューロンの活動を抑圧することにより、線虫が温度勾配上で方向転換をする際に利用する運動回路を、どのように制御するかについて、仮説を提唱することができた。
温度走性神経回路のイメージング解析と、コネクトーム解析の結果から、線虫行動の探索行動と運動回路の関係について、モデルを提唱できたので、今後は、このモデルを検証する。温度に留まらず、誘引性あるいは忌避性の匂い物質や水溶性化学物質などを感知する感覚ニューロンにおける演算が、どのように、探索行動と運動回路に連動しているのかを、明らかにしていく。
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Front. Neural Circuits
巻: 7 ページ: ー
10.3389/fncir.2013.00187
生体の科学
巻: 64 ページ: 354-359