研究領域 | 3次元構造を再構築する再生原理の解明 |
研究課題/領域番号 |
22124006
|
研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
遠藤 哲也 愛知学院大学, 教養部, 講師 (90399816)
|
キーワード | 再生生物学 / 四肢再生 / 哺乳類 / 両生類 / 創傷治癒 / 炎症 / 骨折治癒 |
研究概要 |
前年度までの成果を踏まえて、まず本年度は災症因子であるProstaglandinの合成酵素COX-2の切断肢における発現を調べ、災症反応の起きている時期と場所の特定を行った。まず切断後1日目には、①COX-2を高発現した好中球が骨の周囲や切断面上に蓄積してくる。この発現は徐々に低下し、骨の周囲に形成される軟骨カルスが顕著になる5日目にはほとんどなくなる。代わって②カルスの成長方向である側面の間充織細胞での発現と、③カルス先端の肥大軟骨細胞における発現が見られるようになる。昨年得られたアスピリン投与による軟骨カルス形成の阻害実験の結果を考え合わせると、発現①が軟骨カルス形成開始に、発現②が軟骨カルスの成長に関与していることが考えられた。 次いで軟骨カルス形成過程の様々なタイミングでBrdUを投与することで、カルス形成時に増殖している細胞を明らかにし、さらにBrdU を取り込んだ細胞を追跡して、その系譜を追った。これまでカルスは軟骨膜の細胞が増殖してできることが知られていたが、今回の実験からカルスの成長過程においては周囲の間充織細胞が軟骨細胞へと分化し、カルスを側方へ成長させていることが分かった。またアフリカツメガエルの四肢を切断した際に作られるスパイクの伸長時にも同じ方法で増殖細胞の系譜を追跡したところ、スパイクを形成していく細胞も、マウスの軟骨カルスの場合と同様に周辺の間充織細胞であることが分かった。これまでの組織学的観察結果に加えて、この類似性からもスパイクは基部に形成される軟骨カルスが、再生芽形成に伴って先端部方向へ伸びてできたものである可能性が考えられた。すなわちツメガエルの再生芽形成・伸長に関わる因子を作用させることで、マウスの軟骨カルスからもスパイクを誘導し、骨折治癒などへの応用ができるのではないかと期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本来再生をしない哺乳類において、どの程度の再生反応が起きているのかを知ることは、本研究を進める上で基盤となる知見である。これまで哺乳類の四肢再生を目指した本格的な研究はなかったことから、このような知見はほとんどないといってよい状態であった。特に分子生物学的知見が乏しかった状況で、炎症因子が鍵となる再生反応がマウスにおいて見られることが分かったのは、再生不能の分子的な原因を探る上で、有意義な成果であると考えている。 また四肢のパターンを再生させるという究極的な目標に加えて、ツメガエルのスパイクのようなものをマウスにおいて形成させることができるようになることは、将来的に再生医療などへの貢献を考えたとき、大きな意味を持ってくると思われる。骨折治癒や義手・義足をつける骨の土台作りなど、四肢のパターンがなくとも応用が期待される面が数多く見られるからである。そういった方面へ発展していくための方向性が見えてきたことからも、研究の進捗状況としては、おおむね順調であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
マウス再生不能の原因を考える上では、再生のモデル動物とのさらなる比較が必要である。特に再生を可能にしている分子メカニズムを理解し、それをどのようにマウスへと応用していくかの、実験方法の確立が不可欠であると考えられる。 本研究では既に予備的な成果として、両生類の四肢再生研究で用いられている過剰肢付加モデルのマウスへの導入に成功している。今後は、過剰肢付加モデルを本格的に利用し、再生モデル動物との比較を進めていきたい。また再生反応への関与が見えてきた炎症シグナルについて、活性化因子や阻害因子を利用することでシグナル系を人為的に操作など、再生反応を積極的に操作していく方向へと進めていきたい。 炎症因子の関与が分かってきたものの、分子メカニズムの理解を進める上では、まだ知見が十分とはいえない。再生に関与する他のシグナル系を探索し、アプローチ方法のバリエーションをもっと増やしていくことが、今後の課題である。
|