研究領域 | ゲノムアダプテーションのシステム的理解 |
研究課題/領域番号 |
22125003
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩崎 博史 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (60232659)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 接合型変換 / ヘテロクロマチン / 相同組換え / DNA 二重鎖切断 / 分裂酵母 / Swi2-Swi5複合体 / Rad51 / ゲノムアダプテーション |
研究実績の概要 |
分裂酵母の接合型変換の素過程は、接合型決定座位( mat1 )とサイレントな座位(mat2, mat3 )との間での厳密な反応極性を有する遺伝子変換である。この極性制御は、サイレントな遺伝子座位でのヘテロクロマチンによる高度な制御(染色体コミュニケーション)と mat1 近傍のゲノム情報の世代を超えた発現(インプリンティング)が、深く関係している。本研究では、その反応機構の解明を目指している。 Rad51リコンビナーゼが接合型変換時の遺伝子変換を行う中心的なタンパク質であるが、これを制御する補助因子としてSwi2-Swi5複合体が働くことを明らかにしている。一方、一般的な組換えや組換え修復においては、Rad51補助因子として、Swi5-Sfr1複合体が働く。これまで、我々は、Swi5-Sfr1複合体の機能解析を行い大きな成果をあげてきた。Sfr1とSwi2は相同性を有しパラログ同士の関係にあることから、Swi2-Swi5複合体もSwi5-Sfr1複合体と同様に、Rad51のDNA鎖交換活性の促進効果が予想される。そこで、本申請研究では、試験管内再構成反応系を構築して、これを証明しようとしている。昨年度までに、Swi2-Swi5タンパク質複合体、Swi6タンパク質の精製が完了した。また、接合型変換時のエンハンサー様シスDNA (SRE3)をクローングして、モデルDNA基質を構築した。今後は、反応条件を検討して、DNA交換反応を解析する予定である。また、Chip-SeqによってSwi2の局在を解析し、新たなSRE様領域(SRE2と命名)の候補を見いだしている。このDNA領域の生理的意義について今後解析する。3C (Chromosome conformation capture) 法によってmat 座位における染色体の配置を解析した。今後は、さらに解像度をあげる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 接合型変換の試験管内再構成系:接合型変換におけるDNA鎖交換反応の分子機構について、精製したタンパク質を用いた試験管内再構成系を構築して解析しようとしている。前年度、懸案であったSwi2-Swi5複合体の精製に成功した。現在、精製したSwi2-Swi5複合体を用いて、Rad51依存的DNA鎖交換反応に対する促進効果を解析しようとしている。 (2) 接合型変換に関わるシス因子SRE (Swi2-dependent Recombination enhancer)の機能解析、及び Swi2相互作用因子の解析:SREは、mat3Mの下流に存在し、これが、遺伝子変換促進のシス因子で働くと考えられている。この領域は、Swi2が最初に結合する場所であると考えられていた。昨年度、Swi2の局在をChIP-seqで解析したところ、あらたに、mat2近傍に局在する領域が存在することを明らかにした。また、これまでに、酵母2ハイブリッドスクリーニングを行い、約50個の候補タンパク質が得られた。これらの変異株を作製して接合型変換に異常があるかどうか検討し、接合型変換に関与する遺伝子を新たに同定した。 (3) サイレントなmat遺伝子座のクロマチンの動態:接合型変換の反応の方向性は、サイレントなmat2-mat3領域のヘテロクロマチン状態によって規定されていると考えられている。3C法によって染色体の空間配置を解析して、mat2の一端とmat3の一端が空間的に近位に配置されることを明らかにした。 (4) 一般的相同組換え機構とのメカニステックな違いについて:Swi2パラログであるSfr1については、これまでの解析から多くの知見が得られている。昨年度は、Swi5-Sfr1の結晶構造解析の成果を論文に発表した。 以上の成果は、おおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 接合型変換の試験管内再構成系:精製したSwi2-Swi5複合体を用いて、Rad51依存的DNA鎖交換反応に対する促進効果を解析する。特に、SREを含むDNAを標的としてDNA鎖交換反応系を構築し、その効果を解析する。また、Swi2-Swi5複合体を安定的に再現性よく精製ができるよう、今後も改良を重ねる。 (2) 接合型変換に関わるシス因子SRE (Swi2-dependent Recombination enhancer)の機能解析、及び Swi2相互作用因子の解析:昨年度、Swi2の局在をChIP-seqで解析したところ、あらたに、mat2近傍に局在する領域が存在することを明らかにした。最初に発見されたmat3近傍のSREをSRE3と、mat2の近傍に存在するSREをSRE2と命名する。この2カ所のSREがどのように機能分担しているのかを、今年度は重点的に解析する。また、この2カ所の片一方、もしくは、両方、欠失させたり、また、いろいろな場所に移植したりして、組換え活性化が起こるかどうか解析する。また、これまでに、Swi2相互因子を酵母2ハイブリッドスクリーニングで求め、その解析から、新たに接合型変換に関与する遺伝子を数種同定した。今年度は、これらを機能についてさらに詳しく解析する。また、非必須遺伝子の欠失変異ライブラリを用いて接合型変換欠損を網羅的に解析する。 (3) サイレントなmat遺伝子座のクロマチンの動態:接合型変換のdirectionalityを明らかにするために、今年度もmat領域の染色体の空間配置を3C法にて解析する。 (4) 一般的相同組換え機構とのメカニステックな違いについて:今年度も、Swi5-Sfr1複合体の機能解析を、本研究と併行して解析し、Swi2-Swi5とSwi5-Sfr1間の機能的な差違の根本原因を解明する。
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