研究領域 | ゲノムアダプテーションのシステム的理解 |
研究課題/領域番号 |
22125009
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡邉 日出海 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (30322754)
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研究分担者 |
小柳 香奈子 北海道大学, 情報科学研究科, 准教授 (20362840)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | DNA二重鎖切断 / 修復 / ゲノム / 進化 / 酵母 / ヒトアデノウイルス / 相同組換え / 自然選択 |
研究概要 |
ゲノムDNAに生じた二重鎖切断(DSB)の位置を高精度で検出するための方法を新たに開発し、本領域班員の白髭教授の研究室で維持されている半数性出芽酵母BY4741株(BY4741白髭株)のG1アレスト細胞への応用を行った。まず、同株のゲノム配列を、同班員である伊藤教授研究室のMiSeqおよび同研究室で開発されたアセンブラを用い、決定した。その結果、既知のBY4741 Toronto株と異なる構造を持つこと、および、至適条件下で培養された細胞集団では、突然変異は検出しうる頻度で発生しないことを確認した。次に、DSBの位置を高精度かつ網羅的に検出するための方法を新規に考案し、BY4741白髭株に応用した。その結果、巨視的には各核染色体のテロメアの近傍においてDSBが生じにくくなっていること、微視的には遺伝子領域よりも遺伝子間領域でDSBの高密度領域が多く見られることなどが観察された。これらは、DSB発生頻度の領域特異性を示唆している。一般に、遺伝子領域は、遺伝子間領域よりも機能的制約が強くかかっているために進化速度が遅い、と考えられているが、本研究の結果、遺伝子領域には物理的にDSBが生じにくいという性質があり、その影響で進化速度が遅くなっているという可能性が示された。また、独自に世界各地から収集し配列決定したヒトアデノウイルスゲノムを用いてゲノム再編成の解析を行った結果、ゲノムの特定領域(ホットスポット)に組換え境界が集中していること、ホットスポットの近傍に遠縁ゲノム間でも高度に保存している領域が存在していること、ゲノム中の離れた位置にある領域間で共進化している場合があることなどを明らかにした。これらを総合すると、ヒトアデノウイルスは、遠縁系統間でも高度保存部位で相同組換えを行うとともに、おそらく構造・機能的制約のために共進化遺伝子の組み合わせが選択されていると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNA二重鎖切断(DSB)の高精度検出法を独自に開発し、実際に応用することができた。その結果、突然変異発生の原動力となるDSBがゲノム領域特異的頻度で生じるといった新しい知見が明らかになりつつあり、研究目的を達成しつつある。DNA二重鎖切断修復系特異的遺伝子の欠損株を含めた突然変異解析については、突然変異の効率的検出のための濃縮化法を開発中である。ヒトアデノウイルスゲノムにおける組換え解析については、多くのゲノム配列決定およびそれらを含む多くのゲノム比較解析を行い、十分な成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
出芽酵母の半数性a型BY4741株のゲノムにin vivoで人為的DSBを導入し、修復機構によるDSB再結合の際に生じる突然変異を検出する。DSB修復後の酵母を単離培養し、そのゲノム配列の決定と比較解析により突然変異を同定する。そのために、突然変異が生じたゲノムを効率的に検出するための方法の開発を進める。また、独自に開発した修復前DSB発生箇所を簡便かつ高速に同定するための方法により、DSBの数およびゲノム上での分布等を明らかにする。それらを統合して、ゲノムにおける突然変異発生特性を明らかにする。系統特異的な各種突然変異発生特性および適応進化の存在を明らかにするために、酵母に加えて、その姉妹群を構成する後生動物における特性についても調べる。例えば、近縁種でありながら、DNA変異源の質的量的違いのある環境それぞれに適応して生息している系統のゲノム比較解析を行う。得られる酵母および後生動物系統の突然変異発生特性から、真核生物における分子進化モデルを構築する。この進化モデルと進化過程でゲノムに固定された突然変異との差異は、自然選択の存在を示唆する。真菌あるいは後生動物特異的突然変異発生特性が見出された場合は、その原因の解明を試みる。ヒトアデノウイルスを用いた研究では、組織特異性や病原性と適応的ゲノム進化の関係の解明を進める。
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