研究領域 | 食欲と脂肪蓄積の制御と破綻の分子基盤の解明 |
研究課題/領域番号 |
22126002
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
寒川 賢治 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 所長 (00112417)
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研究分担者 |
宮里 幹也 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (50291183)
岸本 一郎 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 医長 (80312221)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生理活性ペプチド / 食欲 / エネルギー代謝 / ナトリウム利尿ペプチド / グレリン / BMP-3b |
研究実績の概要 |
肥満は、高血圧・心血管障害・糖尿病などの関連疾患を頻発させ、その治療と予防は医学的・社会的に大きな課題である。食欲・エネルギー代謝制御の分子レベルでの病態の解明は、肥満のみならずそれに起因する疾患を総合的に治療する新しい治療法の開発につながるものと期待される。 食欲・エネルギー代謝制御に関連する新規因子の同定を目的として、脳視床下部に高発現するオーファン受容体の安定発現細胞を用いて、新たに確立した細胞の微小形態変化に伴うインピーダンス変化を指標とする活性検出系により検出されたアゴニスト活性を有する3種類のペプチドの単離・構造解析を行い、合成品による活性測定を実施した。さらに、従来の細胞内カルシウム上昇を指標として1種類の非ペプチド性因子の検出に成功し、構造解析・化学合成を進めた。 既知ペプチドの機能解析については、高脂肪食を負荷したナトリウム利尿ペプチド(NP)受容体欠損動物では、野生型対照動物に比較して内臓脂肪蓄積や脂肪肝の程度が顕著であることを明らかにし、さらに解析数を増やして施行した結果、脂肪蓄積に対するNP情報伝達系の抑制効果が確実であることを確認した。 グレリンに関する臨床研究として、2型糖尿病患者を対象に高脂肪食を負荷して、その前後の血中グレリン濃度と臨床パラメータの相関解析を継続して進めた。ヒトにおいて活性型グレリン濃度と体脂肪蓄積との密接な関係が示唆された。 タンパク質性因子であるBMP-3bについて、脂肪蓄積制御に関する解析を進めた結果、in vitroでは、BMP-3bは脂肪細胞に高い発現を認め、脂肪細胞に対しては分化抑制作用を示した。また、BMP-3b過剰発現マウスは、高脂肪食負荷しても野生型と比較して体重が軽く、脂肪組織量も減少しており、BMP-3bは新たなアディポサイトカインとして、脂肪細胞機能制御に関与し、肥満の病態と関連することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たな食欲・エネルギー代謝制御因子の探索法の開発研究については、オーファン受容体の内因性リガンド探索において、新たな活性検出系として細胞の微小形態変化に伴うインピーダンス変化を指標とする活性検出系を構築でき、今回構築できた新たな活性検出法により、新規制御因子の探索研究は大きく前進した。さらに、これらの新たな活性検出法は、本研究領域における他の多くの研究分野の中での細胞シグナル研究への応用が可能であり、計画研究及び公募研究の各研究グループとの連携に寄与できる。 既に同定しているペプチド性因子の食欲・脂肪蓄積制御系における機能解明に関する研究については、研究代表者が発見したナトリウム利尿ペプチドやその受容体、グレリンなどの改変マウスを用いて評価系を構築するとともに、確立した評価系を用いて、ナトリウム利尿ペプチドやグレリンのシグナル系のin vivoにおける解析が可能になり、新たな知見を得ることができた。また、グレリンの2型糖尿病患者における臨床的意義の解明にも着手し、その解析を展開した。さらにペプチド性因子のみならず、当研究室で発見したタンパク質性因子であるBMP-3bについても、新たなアディポサイトカインとして脂肪細胞機能制御に関与し、肥満病態と関連することを示し、当初計画より広がる研究の展開を呈示できた
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今後の研究の推進方策 |
新規制御因子の探索については、新たな探索法の確立を継続するとともに、前年度までに確立した活性検出系を用いて、新規因子のスクリーニングを継続する。また、同定している新規制御因子候補については、構造解析を進め、生体内における機能を明らかにする。当初、新規のペプチド性リガンドの同定を想定して研究を開始ししていたが、一つのオーファン受容体に対するアゴニスト活性を有する因子が、極めて微量な非ペプチド性因子であることが判明したため、非ペプチド性因子についての研究計画も組み込み、専門家の協力のもと研究推進を図る計画とした。 既知因子の機能解析研究を進めるにあたり、当初予定したペプチド性因子(ナトリウム利尿ペプチド、グレリンなど)だけでなく、研究代表者らが同定したタンパク質性因子であるBMP-3bについても新たなアディポサイトカインとして脂肪細胞機能を制御する作用を有していることが判明したため、本タンパク質の研究を進めている研究者の協力を得て、食欲・脂肪蓄積制御における新たな知見を見出し、疾患モデル動物や遺伝子改変動物を用いて、生理的および病態生理的意義を確立していくとともに、臨床的意義についても検討を進める計画とした。
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