計画研究
食欲や脂肪蓄積の制御を明らかにするためには、脳内の摂食およびエネルギー代謝調節を統御するニューロンネットワークの神経解剖学的な解析が必須である。さらに脳と末梢臓器間の神経ネットワークを解明することにより、末梢臓器の生理機能の制御の分子基盤の解明につながると考えられる。そこで摂食・エネルギー代謝に関与するリガンド産生細胞の分布・局在、求心路や遠心路を同定することによって、脳内のみならず脳-末梢臓器間のネットワークを解明することを目的としている。そこで昨年に引き続き本年度もガラニン様ペプチド(GALP)に注目した。GALPは摂食調節とエネルギー代謝にかかわるペプチドである。タモキシフェン誘導型Cre-loxPシステムを利用した時・空間的にβガラクトシダーゼを発現する遺伝子改変動物をもちいてGALP産生ニューロンの分布局在を同定した。これまでラットにおいてGALPニューロンは視床下部弓状核に局在していることが報告されているが、今回我々のマウスを用いた抗EGFP抗体による蛍光染色および特異的GALP抗体を用いた観察結果でも、視床下部弓状核にGALP陽性細胞が認められた。さらに、GALPの生理学的検討として、摂食量の減少及び体重減少が報告されているが、その作用機序の一つとして脳内で作用したGALPが交感神経系を介して肝臓及び脂肪組織での脂質代謝亢進作用を明らかにした。さらに、絶食時のエネルギー代謝調節機構として、肝臓がグリコーゲンの減少を感知し迷走心経を介して脳へシグナルを送り、脳からは交感神経を介したシグナルを経て脂肪組織での脂肪分解が亢進するという肝臓-脳-脂肪組織のクロストークによる神経性の調節機構の存在を明らかにした(Nat. Commun. 2013;4:2930)。
2: おおむね順調に進展している
昨年度はGALP、 NPWの特異的抗体を用いて光顕レベルあるいは電顕レベルでGALP、NPWなどを含むニューロンの形態解析を行った。また、GALPにおいてはGALP特異的抗体と遺伝子改変マウスを用いてGALP発現の局在を明らかにした。加えて、GALPの生理作用として、すでに抗肥満作用が報告されているが、その作用機序の一つとして交感神経系を介した末梢組織、特に肝臓及び脂肪組織での脂質代謝を改善させる事を明らかにした。さらに、肝臓-脳-脂肪組織のクロストークによる神経性のエネルギー代謝調節機構の存在を明らかにした。本年度の目標としては、タモキシフェン誘導型Cre-loxPシステムを利用したGALPニューロンの求心路の同定およびGALPの神経調節を生理的に解明し、さらにはGLAP受容体の同定を考えている。
1)GALP神経ネットワーク解析:これまでに作製したTgマウスでGALPニューロンの求心性神経支配ニューロンの起始部位を同定する。2)GALPの代謝調節能の解析:GALPが肥満に対してどのような影響を及ぼすのか明らかにするため、食餌誘発性肥満マウスを作成し、GALP脳室内反復投与を行い糖・脂質代謝に与える影響を検討する。さらに、GALPが交換神経系を活性化する経路を明らかにする。その可能性に一つにPOMCニューロンに着目して検討する。具体的には、GALPニューロンとα-MSHニューロンは一部共存していることから、GALPがPOMCニューロンを介して交感神経を活性化している可能性を考え検討を行う。3)細胞内シグナル変動の時・空間動態解析法の開発:セルキーシステムを用いGALP刺激時の細胞内シグナル変動の解析を行うとともに、GALP受容体の同定を試みる。GALPとの神経相関が明らかになっているものの、その詳細な調節関係が明らかではないPOMC及びNPYニューロンに着目し、それらのペプチドを発現する視床下部不死化細胞を用い、GALP添加後のインピーダンスの変化を測定する。また、これらの細胞に反応があった場合、その細胞に発現するオーファンGPCRをマイクロアレイによって網羅的に解析することで、GALP受容体の同定を試みる。
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