計画研究
本年度は、消化管ペプチドの摂食調節の分子機序の解析と肥満発症と消化管ペプチドの関係性ついて研究を行った。我々は、末梢情報の中枢伝達における重要な中継器官である迷走神経節に着目した。我々が確立した単一細胞の解析技術を駆使し、迷走神経節の情報伝達機序を解析した結果、消化管由来摂食調節ペプチドが、迷走神経に作用し、カリウムチャネルの活性を調節することで、神経線維の発火頻度を調節していることを明らかにした。このカリウムチャネルの調節は、神経線維のナトリウムチャネル活性化に加えて、細胞内のカルシウム濃度も変動させ、迷走神経節神経細胞の蛋白合成の変化にも関与していることが推察された。迷走神経節神経細胞の消化管由来ペプチドに対する受容体の組み合わせは多様であり、個別の迷走神経節神経細胞が、複数のペプチド情報を末梢レベルで統合し、中枢に伝達していると考えられる。12週間の高脂肪食(60%kcal脂肪含量)摂取によって肥満したマウスでは、グレリンの摂食亢進作用が消失した。高脂肪食は、視床下部において炎症が拡大していた。肥満マウスでは、迷走神経節での蛋白分解酵素系の遺伝子が増加するのに対し、グレリン受容体の発現が抑制された。さらに肥満マウスでは、視床下部においても、グレリン受容体発現が減弱していた。過食肥満の原因としては、従来考えられてきた摂食亢進シグナルが亢進するためではなく、末梢情報の伝達不全が関係している可能性をみいだした。肥満における消化管に始まり、迷走神経節、視床下部へと続く、情報伝達不全の負の連関について研究を進めるため、自動血液サンプリング装置を追加配分により購入した。現在、正常体重と肥満マウスを用いて、無麻酔・無拘束下、摂食のタイミングと消化管ペプチド分泌を経時的解析に着手した。消化管を起点とした肥満発症機序を解析するため順調に研究を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
迷走神経の活性化調節における分子機序と消化管ペプチドの役割の解析が順調に進み、単一の消化管ペプチドによる調節機序は、ほぼ明らかとなった。さらに消化管ペプチドによる摂食調節機序を生理条件下で明らかにするため、新たに、肥満における摂食のタイミングと消化管ペプチドに分泌動態の変化を検証する研究課題を設定し、追加配分によって購入した自動採血装置を用いて研究に着手している。
今後は、単一細胞解析技術をさらに発展させ、ペプチド連関による迷走神経活性調節の分子機序を明らかにすることを目標とする。さらにアデノウィルスに消化管ペプチド受容体遺伝子を導入し、グレリン受容体欠損マウスやGLP-1受容体欠損マウスの迷走神経節神経細胞特異的に受容体を発現させる技術の確立を目指し、内因性消化管ペプチドによる摂食調節および肥満発症との関連を検証する。
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