研究領域 | 食欲と脂肪蓄積の制御と破綻の分子基盤の解明 |
研究課題/領域番号 |
22126011
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小川 渉 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40294219)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 糖尿病 / インスリン抵抗性 / エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
KLF15についてはその機能を個体レベルで明らかとするためKLF15-floxマウスの作成を行った。具体的にはES細胞中にKLF遺伝子座にloxpP配列を挿入した遺伝子組み換え型ES細胞を作製し、マウス胚に導入してキメラマウスの作成を行った。結果、組み換え効率の高いキメラマウスが得られ、キメラマウスと野生型マウスの交配によりKLF15-floxアリルが子孫に伝達されることも確認でき、KLF15floxマウスが樹立された。また、老化におけるKLF15の役割を明らかとするため、KLF15の発現の加齢による発現変化を検討したところ、骨格筋では加齢に従いその発現が増強することが明らかとなった。
PGC1α新規アイソフォームについてはアドレナリン刺激との関連を中心に検討を進めた。PGC1α新規アイソフォーム欠損マウスではアドレナリン刺激によるPGC1αの発現誘導が低下しており、新規アイソフォームがアドレナリン刺激におけるPGC1α増加の本体を担うことが明らかとなった。また、PGC1α新規アイソフォーム欠損マウスではアドレナリンによるエネルギー消費の増強が抑制されていた。肥満動物においてもアドレナリンによるPGC1αの発現誘導やエネルギー消費の増強が抑制されており、この現象の一部は骨格筋におけるβ2アドレナリン受容体の発現の低下に起因すると考えられた。また、培養細胞にある種の脂肪酸を作用させるとβ2アドレナリン受容体の発現の低下が生じたことから、肥満における骨格筋のアドレナリン抵抗性は脂肪酸の作用を介する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に従いKLF15floxマウスが確立され、今後、C57BL6マウスへの純系化の後に、各種の臓器特異的Creリコンビナーゼ発現マウスと交配させれば、当初の計画に従って臓器特異的KLF15欠損マウスが作成できると思われる。またKLF15の発現変化についても、従来の絶食や運動といった刺激のみならず、加齢による変化も見出した。今後臓器特異的KLF15欠損マウスの代謝表現型を解析する際にも、加齢による変化の影響も検討すべきことが明らかとなった点で、研究の適応範囲が広がったといえる。 PGC1αに関しても、アドレナリン抵抗性によるエネルギー代謝障害の発症病理に関わることが明らかとなった点は大きな学術的進歩といえる。また、今年度の研究において、脂肪酸がβ2アドレナリン受容体の発現を減少させることも明らかとできた。アドレナリン抵抗性が受容体レベルで生じること、また、その発症病理に脂肪酸が関わることは、今回、初めて明らかとなった事実であり、今後そのメカニズムの追及を通じて肥満とエネルギー代謝障害に関する新規で重要な知見につながる可能性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
KLF15の生理的機能の検討については、当初の計画通り、臓器特異的KLF15欠損マウスの作成を進める。また、今回、骨格筋においては運動や絶食に加え、加齢によってもKLF15の発現が変化することが明らかとなったため、その生理的意義を検討するため野生型の加齢マウスの骨格筋における生化学的変化についても詳細な解析を行うこととする。 PGC1α新規アイソフォームについては特にアドレナリン作用やアドレナリン抵抗性との関係の中でさらに機能の検討を進める。具体的には脂肪酸がβ2アドレナリン受容体の発現を減少させるメカニズムの追及を行う。また、骨格筋のアドレナリン抵抗性の個体レベルでの生理的意義を明らかとするため、新たな遺伝子改変マウスの作成も試みる。
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