研究概要 |
発生における組織構築の際、細胞は同じ方向に極性化して協調的に移動、分裂をする。しかし、このような細胞極性が細胞外のシグナルによって制御される機構は明らかでない。線虫C.elegansの発生の際、ほとんどの細胞は前後方向に分裂し、運命の異なった娘細胞を作り出す。これらの非対称分裂に必要な細胞の極性はβカテニンなどが細胞内で非対称に局在する新規のWntシグナル経路によって、どの細胞でも同じ方向に同調されている。我々はseam細胞と呼ばれる表皮系幹細胞群の極性が3種類のWnt(CWN-1,CWN-2,EGL-20)によって冗長的に制御されていることを明らかにしている。Wntの三重変異体では、幹細胞は極性化するが、極性の方向が異常になることから、Wntは極性の方向を制御している。またWntのうちCWN-2は体の前方で、CWN-1,EGL-20は後方で発現している。驚いたことに、後方で発現しているWntを前方で発現させても、正常に機能する。Wnt依存的な極性協調機構を解明するため、表皮系幹細胞の数、または間隔の異常を指標にRNAi法によるゲノムワイドなスクリーニングを行い数多くの候補遺伝子を同定している。このうち、icd-1とppk-1遺伝子について特に機能解析を進めている。icd-1は新規合成ポリペプチドに結合するβNAC複合体の構成因子であるがその生体内での機能はよくわかっていない。ppk-1はイノシトールリン脂質の一種PIP2を産生するホスファチィジルイノシトールー4リン酸5'キナーゼをコードしている。これらの遺伝子の変異体では幹細胞の極性が異常になる。
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