研究概要 |
発生における組織構築の際、細胞は同じ方向に極性化して協調的に移動、分裂をする。しかし、このような細胞極性が細胞外のシグナルによって制御される機構は明らかでない。線虫C. elegansの発生の際、ほとんどの細胞は前後方向に分裂し、運命の異なった娘細胞を作り出す。これらの非対称分裂に必要な細胞の極性はβカテニンなどが細胞内で非対称に局在する新規のWntシグナル経路によって、どの細胞でも同じ方向に同調されている。三種類のWntが冗長的に働き極性方向を制御していることを明らかにしたが、その機構は不明である。極性同調機構を解明するために、関与する三種類のWntとWnt受容体(LIN-17/Frizzled,MOM-5/Frizzled, CAM-1/Ror)の変異を様々な組み合わせで持つ株を作成し、その表現形を観察した。その結果、他のWntと異なり前側で発現しているCWN-2/Wntが特異的にCAM-1受容体を介していることが明らかになった。CAM-1/Rorの下流経路と、Frizzled受容体の下流経路が異なることが極性同調化の鍵だと考えられる。 われわれはWnt経路の下流で癌抑制蛋白APCが非対称に細胞表層に局在し非対称分裂を制御していることを明らかにしている。またWntが関与しない受精卵P0でもAPCが非対称に局在していることを発見した。正常胚P0の分裂後期に紡錘体が後方に引っ張られることで分裂が非対称になるが、このとき後方の中心体は激しく振動するが前方の中心体は振動しない。APCを阻害すると両方の中心体が震動することがわかった。APCが前方の表層で微小管を安定化することで中心体の動きを抑制していると考えられる。遺伝学研究所木村暁准教授との共同で微小管による中心体の動きのシミュレーションを行い、微小管の表層での安定化でAPCの機能を説明できることを示した。
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