非対称分裂は細胞の多様性を作り出す基本的原理である。機能的な組織を形成するためには、非対称分裂が組織内で協調して起こり、多種多様な細胞を秩序正しく作る必要がある。線虫C. elegansのほとんどの細胞は同じ前後方向に極性化し、非対称に分裂する。βカテニンは後ろ側の娘細胞の核に、TCFは前側の娘細胞の核に非対称に局在する。表皮幹細胞(seam細胞)の極性には複数のWntが冗長的に働いている。CWN-2は体の前方で、CWN-1やEGL-20は後方で発現しているが、同じ効果を持ち、三種類とも変異させないと大きな異常は見られない。これに対し、生殖巣を作る二つの体細胞(Z1とZ4)は前後方向に互いに鏡像対称な極性を持ち、そこから作られる生殖巣も鏡像対称である。表皮幹細胞の場合と異なり、この細胞の極性は全てのWnt遺伝子が変異した場合でも正常であり、Wntは必須ではないことを以前示していた。しかし、lin-17/Frizzledの変異体においてはWntが重要な働きをしていることを発見した。lin-17と三種のWnt変異を組み合わせるとZ1/Z4の極性が失われ、生殖巣は形成されない。また三種類のWntが全く異なった機能を持っていることも明らかにした。特にlin-17と二種のWnt変異を組み合わせると、Z1の極性のみが逆転し、鏡像対称性が崩れた。この時、生殖巣の鏡像対称性も崩壊した。生殖巣はZ1 Z4から作られるDTC細胞が反対方向に移動する結果、鏡像対称になる。この変異体においてはZ1由来のDTCの母細胞の極性が逆転した場合、DTCの移動方向も逆転し、鏡像対称性が崩れるていた。細胞の移動方向がその母細胞の極性によって決定されるという新規のロジックが明らかになった。
|