研究領域 | ミクロからマクロへ階層を超える秩序形成のロジック |
研究課題/領域番号 |
22127006
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小椋 利彦 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (60273851)
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キーワード | 力 / 転写 / miRNA / 心臓 |
研究概要 |
核内に移行する因子 MKL2 を恒常的に発現するトランスジェニックゼブラフィッシュの樹立を目指したが、発生の初期に異常を来し、成魚を得ることができなかった。これは、MKL2 は中胚葉の組織の発生にも関与する転写因子 SRF の転写活性も制御することによると考えられる。MKL2 は Tbx5 も活性化することがわかっているが、心臓特異的なプロモーターを用いた核移行型 MKL2 の強制発現も、心臓発生初期に異常を来した。この結果を受け、このアプローチを断念することにした。その変わり、2012年度に新しく得られた miR-21 の知見を発展させる研究を開始した。これまでに結果から、ヒレ、心臓の組織を一部切除することで再生を誘導できるが、この時、力学刺激が強く入ると思われる切除部位に miR-21 が強く、しかも迅速に誘導されることを見いだした。この結果は、切除による組織座滅という力学刺激が miR-21 を誘導し、誘導された miR-21 が spry2、pdcd4、ptenb などの細胞増殖抑制因子の発現を抑えて細胞増殖を正に制御して再生を起こすシグナル経路があることを示唆している。従って、miR-21 を過剰発現するトランスジェニック魚は、過剰再生を起こす可能性がある。これを確認する目的で、miR-21 のトランスジェニック魚を作製することとし、複数の F0 個体を得た。また、miR-21 ノックアウトマウスが使用可能となったので、この解析を wound healing、muscle stem cell regeneration の視点から進めることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MKL2 を恒常的に発現するトランスジェニックフィッスの樹立には成功しなかったが、そのかわりに miR-21 に関して新しい展開を作ることができた。また、MKL2、Tbx5 と相互作用して転写を強力に活性化する新たな因子の探索を行い、ARID1/2 が見いだされた。これは、Tbx5/MKL2 の直接の標的遺伝子 Anf (Nppa) プロモーターの詳細な解析から得られた。これまでの解析から、このプロモーター上にはTbx5 結合部位の近傍に SRF 結合配列に良く似た A/T-rich モチーフがあることがわかった。この部位には、SRF、MEFはほとんど結合しないが、このモチーフを除くと Tbx5/MKL5 による活性化が全く起こらなくなることから類推し、A/T-rich モチーフに結合するとされる転写因子を網羅的に検索した結果、見言い出された。この発見は、力学刺激の受容システムに新たな知見を与えるもので、ARID1/2 がクロマチンリモデリング因子として機能することを考慮すると、新たな研究の展開を期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定として2つの研究を計画している。ひとつは、miR-21 TG フィッシュ、miR-21 KO マウスの解析である。すでに、両系統は樹立されており、予備的な解析から wound healing の異常がmiR-21 KO マウスに起こること、ヒレや心筋の損傷後の再生に miR-21 は強誘導されることを見いだしている。Wound healing では、原因となっている細胞の特定、遺伝子発現変化をチュシンに解析し、miR-21 の新たな標的の発見も念頭に入れて検索する。また、miR-21 TG フィッシュにおいては、過剰再生が起こるかどうかを中心に解析する。ふたつめは、Tbx5/MKL2/ARID の転写活性化能の分子メカニズムの検討を行う。これには、ARID1/2 蛋白が A/T-rich モチーフにどの程度の affinity で結合するか、結合の配列特異性はあるか、Tbx5/MKL2/ARID の三者複合体の形成の確認、三者複合体に結合するクロマチン因子の包括的検索と同定、ChiP assay による複合体の結合確認を中心に行う。加えて、ARID2 KO マウスの作製を行う。幸い、ARID2 KO ES 細胞がEUCOMM から購入可能であるので、このES 細胞からマウスの作製を行う。
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