計画研究
カイコガ科におけるイチジク属食からクワ食への転換の遺伝子機構を解明するために、カイコの食性変異体の解析と、カイコガ科種間のトランスクリプトームの比較を行っている。カイコの食性変異体spliおよびBtは、いずれもクワ以外の餌を摂食する。しかも、どちらもカイコの性フェロモンであるボンビコールに対する応答性が低下し、正常なカイコが交尾行動を示さないボンビカールに強く誘引される。spli変異体ではボンビカール受容体mRNAの発現量は正常であったが、ボンビコール受容体mRNAの発現量は約1/1000に低下していた。これらから、spliは、ボンビコール受容体の転写を制御していることが明らかになった。spliのポジショナルクローニングを行った結果、原因遺伝子はショウジョウバエのacj6に相同な遺伝子であり、POUドメインとホメオドメインを持つ転写因子をコードすることが判明した。雄成虫触角、幼虫触角、および幼虫小顋のRNA-seqを、正常蚕とspli変異体の間で、それぞれ解析した。その結果、変異体では嗅覚受容体遺伝子や匂い物質結合タンパク質遺伝子などの発現が減少していた。カイコ(クワ食)と同じカイコガ族(Bombycini)に属する3種、すなわちウスバクワコ(クワ食)、イチジクカサン(イチジク属食)、およびテンオビシロカサン(イチジク属食)について、中腸のトランスクリプトームをGAIIxを用いたRNA-seqによって大規模に解析した。オーソロガスな関係にある遺伝子に関してFPKM値による単純比較を行ったところ、予想通り、クワ食昆虫では糖類似アルカロイドに耐性をもつショ糖分解酵素Suc1の発現量が非クワ食昆虫と比較して高いことが分かった。したがって、クワへの適応には、この遺伝子の転写活性化が鍵となった可能性がある。合わせて、フェロモン腺のRNA-seqによる種間の比較も行った。
1: 当初の計画以上に進展している
カイコ食性変異体の原因遺伝子のクローニングに成功し、嗅覚の異常を伴うことなど新規な事実を明らかにした。また、食性の異なる異種間での中腸のトランスクリプトームの比較から、予想どおりスクラーゼ遺伝子の発現量がクワ食の種で増加していることを明らかにした。
カイコ食性変異体の原因遺伝子であるBmAcj6の機能解析、特に制御下にある発現変動遺伝子の研究を進める。また、食性の異なる異種間での中腸のトランスクリプトームの比較から見いだされた新規な二糖分解酵素遺伝子の機能解析を進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 8件)
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