研究領域 | 複合適応形質進化の遺伝子基盤解明 |
研究課題/領域番号 |
22128004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋田 透 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20202111)
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研究分担者 |
大門 高明 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫成長制御研究ユニット, 主任研究員 (70451846)
木内 隆史 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (60622892)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 複合適応形質 / 共進化 / 比較ゲノム / トランスクリプトーム / 発現制御 |
研究実績の概要 |
昆虫による寄主植物の選択は、典型的な複合適応形質である。幼虫が植物を摂食するには、匂いや味への反応、無毒性と栄養価値などの条件が満たされるだけでなく、雌成虫が寄主植物へ産卵することも必要である。本研究は、カイコガ科蛾類が、イチジク属の植物を寄主とした祖先からクワ属を寄主とする新しい系統へ進化した機構を、遺伝子レベルで解明しようとしている。 各種クワ科植物に対する摂食実験の結果、幼虫のクワおよびガジュマル(イチジク属)への摂食性に大きな種間差異はなく、摂食後の成長に大差があった。イチジクカサンなどガジュマル食の種が桑葉で成長できない原因は、桑葉が含有する高濃度のDNJ、D-AB1などの糖類似アルカロイドであると推定される。カイコガ科および近縁の計10種の昆虫で中腸のRNA-Seqを比較した結果、スクラーゼSuc1やマルターゼなど数種の二糖分解酵素遺伝子の発現量が、カイコ等のクワ食の種で有意に多かった。一方、各昆虫の二糖分解酵素の組換えタンパク質を作製して比較したところ、クワ食の種の酵素は、DNJやD-AB1に対する耐性が高かった。 カイコでは、クワ以外の飼料を食下する広食性変異体が多数分離されており、本研究では、そのいくつかを研究している。すでに2つの変異体の原因遺伝子が転写因子をコードするBmacj6であると同定した。Bmacj6に影響を受ける遺伝子のうち、嗅覚受容体やイオンチャンネル型受容体の遺伝子などに注目し、発現解析や機能解析の実験を行った。 カイコガ科蛾類のフェロモン腺のRNA-seq解析により、カイコのフェロモン腺で高発現し、イチジクカサン・ウスバクワコのフェロモン腺ではほとんど発現しない特殊な酵素遺伝子を見出した。これら昆虫のうち、ボンビコールをフェロモン成分としているのはカイコだけなので、この酵素がボンビコール生合成の鍵遺伝子である可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シークエンサーを用いた大規模なトランスクリプトーム解析のパイプラインを整備し、迅速な比較解析が可能となった。また、変異体を用いた遺伝子の単離も成果を挙げている。これまでの研究はおおむね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、カイコ・ウスバクワコ・イチジクカサンなど複数のカイコガ科昆虫・鱗翅目昆虫の比較トランスクリプトーム解析を進め、二糖分解酵素の量的・質的な進化がクワ乳液の糖類似アルカロイドへの昆虫の適応に関与していることを実証する。食性変異体については、原因遺伝子の機能発現機構を明らかにする。また、カイコガ科におけるフェロモン合成系の進化とフェロモン受容システムの進化を明らかにする
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