研究領域 | 複合適応形質進化の遺伝子基盤解明 |
研究課題/領域番号 |
22128004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋田 透 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20202111)
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研究分担者 |
木内 隆史 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (60622892)
大門 高明 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫成長制御研究ユニ ット, 主任研究員 (70451846)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 複合適応形質 / 共進化 / 比較ゲノム / トランスクリプトーム / 発現制御 |
研究概要 |
1. カイコ近縁種における糖類似アルカロイド耐性獲得機構の解明 (1) トランスクリプトームの比較:クワ食の4種(カイコ、クワコ、ウスバクワコ、クワノメイガ)と非クワ食の4種(イチジクカサン、テンオビシロカサン、エリサン、サクサン)の幼虫中腸を対象にしてIlluminaによるRNA-Seq解析を行った。クワ食昆虫で多く発現する遺伝子を抽出した結果、糖類似アルカロイド抵抗性スクラーゼをコードするSuc1をはじめ、二糖分解酵素遺伝子が多く含まれていた。また、絹糸腺でも消化酵素の一部が発現することが知られていることから、クワ食4種と非クワ食4種で、前部・中部糸腺のRNA-Seqを行った。 (2) 二糖分解酵素の糖類似アルカロイドへの抵抗性の獲得:カイコ、イチジクカサン、エリサンの3種それぞれのα-グルコシダーゼを、バキュロウイルスで大量発現した。精製した酵素の糖類似アルカロイドに対する抵抗性を比較した結果、カイコの酵素は他2種よりも高い抵抗性を示した。 (3) イチジクカサンのゲノム解析:クワ食への進化を理解するには、カイコに近縁の非クワ食種であるイチジクカサンのゲノム情報が必要である。Illuminaでショットガンシークエンシングを行いアセンブルした結果、コンティグのN50が17.1 kbとなる良好なゲノム配列を得ることができた。 2. カイコの広食性変異体の原因遺伝子の単離とトランスクリプトーム解析 カイコではクワ以外の餌を摂食する広食性変異体が分離されている。すでに、Bt変異体の触角や味覚器官のRNA-Seqの結果を解析したところ、嗅覚受容体やイオンチャンネル型受容体の遺伝子などの発現量が大きく変化していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り進んでいる。中腸および絹糸腺のトランスクリプトームの分析から、クワ食の種に共通する特徴、すなわち二糖分解酵素遺伝子の発現量がおしなべて多い、という固有の特徴を抽出することができた。また、クワ食の種の二糖分解酵素が、非クワ食種の酵素に比べて、クワ乳液に含まれる糖類似アルカロイドへ抵抗性が強いことが判明した。これらの特徴はクワ食への適応進化の分子機構を考察するのに重要なデータである。また、カイコの食性変異体の原因遺伝子の単離およびトランスクリプトーム解析から、食性の決定機構についても、解明が進んでいる。以上から、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度解析したイチジクカサンのゲノム情報を、食性進化の観点からアノーテーションする。特に中腸や絹糸腺での発現量がカイコとイチジクカサンで異なる遺伝子について、その転写調節領域の比較を行う。また、カイコの糖分解酵素において糖類似アルカロイド抵抗性が獲得された機構を探る。食性変異体と用いて、嗅覚や味覚の決定機構を明らかにするとともに、食性進化の機構解明につなげる。
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