計画研究
体表の紋様や体色によって捕食者を攪乱する擬態は広範な生物種に認められるが、その形成メカニズムはほとんどわかっていない。鱗翅目昆虫の4つの擬態紋様システム（①アゲハ科幼虫の斑紋形成・切替えと食草適応、②アゲハ蛹体色の環境応答的変化、③シロオビアゲハのベイツ型擬態、④カイコ幼虫斑紋変異系統）に着目し、次世代ゲノム解析技術と分子遺伝学的な手法を組み合わせ、擬態の責任遺伝子と制御機構、さらには擬態の成立・進化機構を明らかにすることを目的として下記の成果を得た。（１）アゲハゲノムの解読：東京工大の伊藤博士らとの共同研究により、シロオビアゲハのゲノムに関してはScaffoldN50のレベルで1Mbを越え、十分に精度の高いゲノム配列が得られた。（２）アゲハ幼虫斑紋切替え機構の解明：４齢初期の表皮のRNA-seqにより、5齢幼虫時の眼状紋と腹部紋様が2種類の異なる転写因子によって制御されること、さらにRNAiによる機能解析によって、これらの遺伝子が紋様切替えにおいてJH制御下の上位因子であることが明らかとなった。（３）シロオビアゲハのベイツ型擬態遺伝子の解明： H座責任領域近傍内の長ヘテロ領域内の遺伝子構造を明らかにした。（４）カイコ紋様形成変異体の責任遺伝子の解明：褐円（L）と同様の形質を示すms遺伝子の遺伝子を同定するとともに、この責任遺伝子がキアゲハでも同様にスポット紋様の形成に関与していることが示された。また、バンドパターンを呈示するZeの責任遺伝子を、siRNAによるノックダウン、個体への強制発現によって同定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初から解析予定だったカイコの斑紋形成変異体5種類の責任遺伝子の同定はほぼ完了したこと、ナミアゲハ及びシロオビアゲハのゲノム解読作業も大部分は終了し投稿できる準備が整ったこと、さらにアゲハの幼虫、蛹、成虫の擬態に関してもそれに関わる責任遺伝子や遺伝子ネットワークの実体が明確になりつつあることから、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
ナミアゲハおよびシロオビアゲハのゲノム解読に関しては、投稿にむけてデータの整理を行う。また、カイコ及びアゲハの擬態の責任遺伝子と遺伝子ネットワークに関しては、データがまとまったものから順次投稿を行っており、プロジェクトの終了時点では、ほとんどの設定課題について投稿を完了させたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (24件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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