計画研究
体表の紋様や体色によって捕食者を攪乱する擬態は広範な生物種に認められるが、その形成メカニズムはほとんどわかっていない。鱗翅目昆虫の4つの擬態紋様システム(①アゲハ属幼虫の斑紋形成・切替えと食草適応、②アゲハ蛹体色の環境応答的変化、③シロオビアゲハのベイツ型擬態、④カイコ幼虫斑紋変異系統)に着目し、次世代ゲノム解析技術と分子遺伝学的な手法を組み合わせ、擬態の責任遺伝子と制御機構、さらには擬態の成立・進化機構を明らかにすることを目的として下記の成果を得た。(1)アゲハゲノムの解読:シロオビアゲハ、ナミアゲハのゲノムを解読し、それぞれN50scaffoldが3.6Mb, 6.2Mbと高精度のアセンブルが完了し、genomeブラウザとして配列を公表した(Nishikawa et al. (2015) Nat Genet4月号参照)。(2)アゲハ蛹体色の環境応答変化:緑色蛹、茶色蛹の脳抽出物をMSで比較し、直接茶色蛹を誘導するペプチドを同定するとともに、その上位で制御する脳内ペプチドの存在が示された。(3)シロオビアゲハのベイツ型擬態遺伝子の解明:第25染色体のdsx近傍130kbにH原因遺伝子座があること、擬態型染色体と非擬態型染色体では逆位が生じていること、前者にはdsx以外に2つの遺伝子が含まれることを明らかにした。また、蝶の紋様形成を解析する手法を開発し、擬態型のdsxのみが擬態紋様を誘導することを証明した。(4)カイコ紋様形成変異体の責任遺伝子の解明:各体節に瘤状の突起を形成するカイコKnobbed(K)変異体の原因遺伝子領域を絞り込むとともに、K遺伝子の存在下でWnt1シグナル経路が発動すると、コブが形成されることが明らかになった。同様の瘤状突起をもつジャコウアゲハの幼虫でも、コブ領域でWnt1の発現が優位に高いことが確かめられた。
1: 当初の計画以上に進展している
ナミアゲハ及びシロオビアゲハの高精度のゲノム配列情報を得ることができた。またゲノムブラウザ(Papilio Base)をネット上で公開し、アゲハゲノム配列情報を誰でも利用できるようにした。また、シロオビアゲハのベイツ型擬態の原因遺伝子を同定するとともに、蝶の翅における遺伝子の機能解析系を世界で初めて完成させたことにより、翅の紋様形成過程を自由に調べることができるようになった。一方、アゲハの蛹に関しては、茶色蛹を誘導するペプチドを同定することに成功し、さらにその上位ホルモンがあることが示唆された。これらの結果は、当初の計画よりも進展したと評価できる。
シロオビアゲハのベイツ型擬態に関しては、dsxの詳細な機能解析を継続するとともに、超遺伝子構造内部に含まれる他の遺伝子の機能を調べる必要がある。一方、アゲハの蛹の体色形成に関しては、同定した茶色誘導ペプチドがどのような下流遺伝子を活性化させるのか、また上位の脳ペプチドを同定するとともに、茶色誘導ペプチドをどのように発現制御しているかを調べる必要がある。
すべて 2015 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (23件) (うち招待講演 4件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Nat. Commun.
巻: 5 ページ: 4936
10.1038/ncomms5936
Applied Entomology and Zoology
巻: 49 ページ: 443-452
10.1007/s13355-014-0271-1
細胞工学「ゲノムで進化の謎を解く」11月号
巻: Vol33 ページ: 1196-1200
むしコラ(Website:応用動物昆虫学会)
巻: なし
Sci. Rep.
巻: 3, e3184
10.1038/srep03184
G3
巻: 3 ページ: 1481-1492
10.1534/g3.113.006239
巻: 4, e1857
10.1038/ncomms2778
蚕糸昆虫バイオテック
巻: 82 ページ: 3-4
生物科学
巻: 64 ページ: 177-179
遺伝
巻: 67 ページ: 216-221
http://www.idensystem.k.u-tokyo.ac.jp/index.htm