研究領域 | 複合適応形質進化の遺伝子基盤解明 |
研究課題/領域番号 |
22128007
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
深津 武馬 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 首席研究員 (00357881)
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研究分担者 |
土田 努 富山大学, 先端ライフサイエンス拠点, 特命助教 (60513398)
二河 成男 放送大学, 教養学部, 教授 (70364916)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 共生 / 体色変化 / 隠蔽色 / 擬態 / ゲノム / 昆虫 / 微生物 |
研究概要 |
・体色を変化させる共生細菌の解析:アブラムシ体色を変化させる共生細菌Rickettsiellaの全ゲノム塩基配列1576143 bpを決定した(Nikoh et al. in prep.)。また、その詳細な微生物学的解析をおこない、”Candidatus Rikettsiella viridis”の暫定学名を提唱した(Tsuchida et al. 2014)。 ・体色変化に関わる宿主遺伝子の解析:RNA-seq法によりRickettsiella感染で変動する多数の宿主アブラムシ遺伝子を検出し、うち2つのポリケチド/脂肪酸合成酵素遺伝子を色素関連候補と同定した。アブラムシの成長に伴う発現を定量PCR法によって解析したところ、Rickettsiella感染虫では赤色の初令幼虫から緑色の成虫に至る過程で100倍以上に発現が上昇していたが、非感染虫ではそれらの遺伝子発現はわずかに減少した。さらに別種の共生細菌RegiellaおよびHamiltonellaに感染した系統について経時的発現解析を行い、それらの発現上昇がRickettsiella感染に特異的であることを確認した。 ・その他の共生細菌のゲノムおよび機能の解析:大豆等の害虫のホソヘリカメムシの適応度上昇や殺虫剤耐性に関与する腸内共生細菌Burkholderia sp. strain RPE64の6.96 Mbのゲノム配列を決定した(Shibata et al. 2013)。農業害虫コナカイガラムシ類の共生細菌のゲノム解析および宿主の発現遺伝子解析をおこない、キュウコンコナカイガラムシの細胞内共生細菌Tremblaya phenacolaの170,756 bpの極小ゲノム配列を決定し、多様な共生細菌由来の水平転移遺伝子がコナカイガラムシ類の共生代謝系の構築に関わることを解明した(Husnik et al. 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・体色を変化させる共生細菌の解析:宿主アブラムシの体色を変化させる共生細菌Rickettsiellaの全ゲノム塩基配列を完全決定することに成功した(Nikoh et al. in prep.)。この共生細菌の微生物学性状や性質に関する知見を蓄積し、暫定学名”Candidatus Rikettsiella viridis”を提唱したが、その論文はAppl Environ Microbiol誌の表紙に取り上げられる(Tsuchida et al. 2014)注目される研究成果となった。 ・体色変化に関わる宿主遺伝子の解析:Rickettsiella感染による宿主アブラムシの赤から緑への体色変化に関わる有力候補遺伝子として、2つのポリケチド/脂肪酸合成酵素遺伝子を同定した。 ・その他の共生細菌のゲノムおよび機能の解析:大豆等の害虫のホソヘリカメムシの適応度上昇や殺虫剤耐性に関与する腸内共生細菌Burkholderia sp. strain RPE64の全ゲノム配列の決定に成功し、論文発表した(Shibata et al. 2013)。農業害虫コナカイガラムシ類の共生細菌のゲノム解析および宿主の発現遺伝子解析により、多様な共生細菌由来の水平転移遺伝子がコナカイガラムシ類の共生代謝系の構築に関わることを解明した研究成果はCell誌に掲載され(Husnik et al. 2013 Cell)、プレス発表「コナカイガラムシの代謝経路を構築する複雑な共生システムを発見―ゲノム、細胞、個体などの基本概念にインパクト―」をおこない、国際的に注目される研究成果となった。
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今後の研究の推進方策 |
・体色を変化させる共生細菌の解析については、宿主アブラムシの体色を変化させる共生細菌Rickettsiellaの全ゲノム塩基配列について論文発表する。またRNA seqデータより共生時に発現するRickettsiella遺伝子群を明らかにする。 ・体色変化に関わる宿主遺伝子の解析については、RNA-seq法によるRickettsiella感染で変動する宿主アブラムシ遺伝子群の解析について論文発表する。また体色変化に関わる宿主遺伝子の有力候補である2つのポリケチド/脂肪酸合成酵素遺伝子を色素関連候補について、RNAi等による機能解析をおこない、論文発表する。 ・その他の共生細菌のゲノムおよび機能の解析についても鋭意研究を進め、成果発表につとめる。 もって最終年度に向けて、共生細菌による宿主昆虫の体色変化その他の適応的な表現型変化の分子基盤の具体的な解明および論文発表に取り組み、「共生関係」を通じた「複合適応形質」の進化という新しい生物学的概念の構築および提示をめざす。
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