計画研究
本研究の目的は,全ゲノムの塩基配列の解析(パーソナルゲノム解析)に基づいて脳疾患の発症に関与するゲノム要因 (genetic variants) を網羅的に明らかにし,脳疾患の病態機序の解明を実現することにある.平成25年度の研究では,家族性筋萎縮性側索硬化症の病因遺伝子を明らかにすることができた.常染色体優性遺伝が考えられる1家系について,SNP typingに基づき連鎖解析を施行し,発症者2名および1名の比発症者について,全ゲノム配列解析を実施した.完全浸透率を想定した場合,候補領域に病原性と考えられる変異を見いだせず,浸透率を下げた連鎖奇跡を実施し,候補領域を広げた.この候補領域内に,発症者に共通し,病原性が高いと考えられる変異がERBB4遺伝子に見いだされた.さらに,国内外の多施設共同研究により,稀ではあるものの,ERBB4遺伝子の変異を有する家系が人種を越えて存在すること,孤発性ALSの中にもde novo変異(両親に存在せず,本人に突然変異で新たに生じた変異)を有する例が存在することを明らかにした.ERBB4遺伝子によって作られるErbB4蛋白質は受容体型チロシンリン酸化酵素であり,神経栄養因子であるニューレギュリン(NRG)に刺激されると自己リン酸化されることでその機能を発揮する.変異したERBB4遺伝子を導入した細胞では,ErbB4の自己リン酸化能の低下が認められ,ErbB4の機能低下がALSの原因となることが明らかになった.このの結果より,NRGのような神経栄養因子によりErbB4を活性化することが,ALSの根本的な治療につながる可能性が示された.
1: 当初の計画以上に進展している
ゲノム解析パイプラインが整備されたこと,さらに,国際的な共同研究態勢により,脳疾患の発症に関わる遺伝子の発見が想定以上に進展した
次世代シーケンサーの解析パイプライン,インフォマティクスパイプラインが整備され,想定以上に解析が進んでいる.現在,本疾患以外にも,候補遺伝子を多数見出しており,これらの遺伝子について発症機構の解明を進めていく.
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
Arch. Neurol.
巻: 70 ページ: 689-694
10.1001/jamaneuro1.2013.734.
J. Neurol. Sci.
巻: 331 ページ: 158-160
10.1016/j.jns.2013.05.018
Am J Hum Genet
巻: 93 ページ: 900-5
10.1016/j.ajhg.2013.09.008
New Engl. J. Med.
巻: 369 ページ: 233-244
10.1056/NEJMoa1212115
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archive/20131011.html