申請者は、マウスの正常細胞に特定の遺伝子操作を加えることにより、自己複製能と多分化能を有した上で癌を形成することのできる細胞を樹立することに成功し、それらを同系マウスに少数移植することにより、ヒトの腫瘍に生物学的および組織学的に酷似した悪性腫瘍を100%誘導するシステムを保有している。この人工癌幹細胞(induced cancer stem cells:iCSC)技術を基盤にし、癌幹細胞の体内での挙動の解析、癌幹細胞と非癌幹細胞との相互作用の解析を行い、それらを制御・構成する分子の同定と阻害化合物の探索を行い、最終的に癌幹細胞の治療抵抗性を克服する戦略をデザインすることを目的として研究を行った。本年度は、骨肉腫iCSCを用いて腫瘍形成能について解析を行い、脂肪、軟骨、骨への3方向の分化能を内在する間葉系幹細胞に近い性質を持った癌細胞が、脂肪分化の能力を喪失すると急速に腫瘍形成能が上昇することがわかり、潜在的な癌幹細胞として機能していることを見出した。また上皮性癌の癌幹細胞マーカーとして知られているCD44の機能解析を行い、そのスプライスバリアントフォーム(CD44v)がシスチントランスポーターxCTと結合し、xCTの細胞膜上での発現を安定化することでシスチンの細胞内への取り込みを増大させ、還元型グルタチオン(GSH)の生成を促進させることを見出した。その結果、癌細胞におけるCD44vの発現は、活性酸素の蓄積を抑制し、腫瘍の増大と治療抵抗性を促進することを明らかにした。
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