癌幹細胞の特性解明や癌幹細胞を標的とした治療法の開発において、癌幹細胞周辺微小環境(ニッチ)側からのアプローチの重要性が認識されているものの、ニッチの分子基盤やニッチシグナルの役割は未解決の問題である。本研究課題では今年度特に、化学合成ポリマーを用いたニッチ構造ミミクリーのスクリーニングや、癌幹細胞由来の非癌幹細胞のニッチシグナル解析などによる、癌幹細胞ニッチ構造の探索とニッチシグナルコンポーネントの同定を通じて、癌幹細胞ニッチの分子基盤を確立し、癌幹細胞維持シグナルを明らかにすることを目的に実施された。 多種類の化学合成ポリマーをスライド上にドットしたアレイを用い、その上で癌幹細胞を培養して評価する方法で、ニッチ構造ミミクリーの探索を行った。約400種類のポリマーアレイについて、蛍光蛋白発現ラットグリオーマC6の癌幹細胞画分のトラップ能や増殖能をレーザースキャニングと蛍光画像解析により評価し、候補ポリマーを得た。 中規模ポリマー合成による検証段階に入りつつ、新規ポリマーの探索も行っている。また、C6グリオーマの癌幹細胞画分はin vitroで培養すると、多くは非癌幹細胞に分化するが、この分化した非癌幹細胞を癌幹細胞と共に培養することで癌幹細胞画分の維持と拡大に寄与するという知見ならびに、その寄与様式が細胞外マトリクスを介するものであることを示唆する実験結果を得た。これは、癌幹細胞が分化することでニッチ環境を構築するという癌の生存戦略の存在を示唆するもので興味深い。癌幹細胞を支持する能力のある非癌幹細胞により多く発現する分子をcDNAマイクロアレイ解析により探索し、種々のタイプのコラーゲン遺伝子を高発現していることを見出した。これらの成果は癌幹細胞とそれに由来する分化した細胞の相互作用を治療標的として捉えることの意義を示す点で重要と考える。
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