研究領域 | 癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築 |
研究課題/領域番号 |
22130008
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田賀 哲也 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (40192629)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / 癌幹細胞 / ニッチ / ポリマー / グリオーマ / 自己複製 / 移植 / 多様性 |
研究実績の概要 |
癌組織を構成する細胞に多様性があり中でも治療抵抗性を有し癌組織構成細胞への分化能と自己複製能を有する癌幹細胞は、癌組織の再構築能力に秀でていることから癌の理解と根治に向けて研究対象および治療標的として重要であるが、その性状については未知の点が多い。とりわけ理解が不十分である、癌幹細胞を維持させる癌幹細胞周辺微小環境「癌幹細胞ニッチ」の分子基盤の確立とニッチシグナルの解明は、この問題解決に大きく寄与すると期待されることから、本研究課題は特にこの点に重点をおいて遂行されている。平成24年度の特筆すべき成果のひとつは、約400種類の合成ポリマーを用いた人工ニッチの探索により得たポリマーPU10に関するものである。すなわち、従来癌幹細胞の性質を有するとされていたC6グリオーマSP細胞群の中にPU10ポリマーへの接着性細胞と非接着性細胞があり、前者が免疫不全マウスの脳内移植実験で高い腫瘍形成能を示すという興味深い結果を得た。これは同ポリマーが造腫瘍性の高い癌幹細胞のニッチをミミックする分子であることを示すと同時に、従来癌幹細胞であると考えられていたSP細胞集団にさらに多様性があることを示唆するという重要な成果である。もう一つの特筆すべき成果は、免疫不全マウスの脳内に癌幹細胞集団であるC6グリオーマSP細胞集団を移植する際に、SP細胞集団で教育したマクロファージを共移植すると、C6グリオーマ非SP細胞集団で教育された対照マクロファージとの共移植よりも、強い腫瘍形成をもたらすというものである。このように本研究課題で得た成果は、合成ポリマーを用いた人工ニッチならびに癌幹細胞がホスト細胞に作用して構築する生体ニッチの両側面から癌幹細胞生存環境の分子的理解に重要な糸口を与えるものであり、癌幹細胞維持シグナルをターゲットとした治療戦略開発に結びつく示唆を与えるものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合成ポリマー群の中から得たヒットポリマーを用いた解析により従来癌幹細胞集団であるとされていた細胞集団にさらに多様性があることの発見や、グリオーマ癌幹細胞が細胞自立的に幹細胞性を発揮するだけでなくホスト細胞に働きかけて癌幹細胞集団の維持および癌の再形成に寄与させるようにニッチを構築するという知見は、当課題により得た独創的な成果であると考えられることが、この評価の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた研究成果に基づいて、今後、癌幹細胞ニッチを治療標的とした開発的研究へと展開させ得る成果をあげることが本研究課題に与えられた使命の一つである。そのためC6グリオーマ癌幹細胞維持能を有するPU10ポリマーにトラップされる分子を分離して質量分析によりその同定を行う。このようなポリマーによる人工癌幹細胞ニッチに関するアプローチに加えて、癌幹細胞がホスト細胞に働きかけて癌を増悪させる生体ニッチを構築するという知見を発展させたアプローチをとることで、癌幹細胞ニッチの理解に迫る。
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