計画研究
癌の理解と癌の根絶に向けて、癌幹細胞の特性解明はもとより癌幹細胞の生存維持に関わる微小環境(ニッチ)の解明が重要視されているが、その分子基盤には不明な点が多い。本課題では人工ニッチという独自の観点から癌幹細胞ニッチの分子基盤の構築を介して、その解決を図った。(1)昨年度までに、数百種類のポリマーのスクリーニングから1種類のウレタン系ポリマーPU10が高い癌幹細胞ニッチミミクリー性を有することが明らかとなったため、PU10に結合する蛋白質を本領域内の北林班員との共同研究により質量分析したところ、3種類の興味深いニッチ候補分子を同定することに成功した。(2)そのうちの一つに鉄運搬分子として知られるtransferrin(Tf)が含まれていたことから、C6グリオーマSP細胞(癌幹細胞)移植腫瘍組織を鉄染色したところ、CD204陽性の腫瘍随伴マクロファージ(tumor-associated macrophage; TAM)において3価鉄(貯蔵鉄)の存在が確認され、癌の進展における鉄貯蔵TAMの関与が示唆された。(3)SP細胞(癌幹細胞)とMP細胞(非癌幹細胞)に発現する遺伝子についてcDNAマイクロアレイ解析を行ったところ、単球の動員やマクロファージ(Mφ)前駆細胞の増殖およびMφ分化を担うCCL2、CXCL12、GM-CSFなどの遺伝子発現が、SP細胞において亢進しており、癌幹細胞自身がTAMの発生を多面的に制御する作用を持つものと考察された。(4)National Cancer Instituteより公開されているグリオーマ患者376例の癌部遺伝子発現データベースの解析からも、Tf受容体やCD204の発現と、予後を含む腫瘍の悪性度との間に正相関が確認されており、癌幹細胞は腫瘍内にニッチを自ら構築して利用する巧みな生存戦略をとるものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
ヒットポリマーを用いた探索により幾つかの新規癌幹細胞ニッチ候補分子を同定できたことや、それらを手掛かりとしてグリオーマ癌幹細胞ニッチが関与する癌病態像の一端を明らかにできたこと、および癌幹細胞が担癌宿主の細胞に働きかけてニッチを構築しているという概念を示唆できたことは、当課題において得られた独創的な成果である。
今年度得られた研究成果に基づいて、今後癌幹細胞ニッチを治療標的とした開発的研究へと発展させることが本研究課題に与えられた使命の一つである。そのため、同定した候補分子群のニッチ因子としての立証を行い、担癌マウスやヒト組織検体を用いて生体内での癌幹細胞ニッチが関与する癌病態の全体像の把握を進める。さらに、有用性が示唆されたニッチ寄与分子を標的とした癌の進展阻害を試み、新規ニッチ標的療法の確立を目指す。加えて、人工ニッチスクリーニングシステムをグリオーマ以外にも応用し、様々な癌種における癌幹細胞ニッチの理解を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Stem Cells
巻: in press ページ: in press
10.1002/stem.1613
Molecular and Cellular Biology
10.1128/MCB.01485-13
生化学
巻: 86 ページ: 67-81
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