計画研究
H3K36me酵素Whsc1の機能を転写とDNA修復の分子共役の視点で明らかにするために、Whsc1欠損による造血幹細胞からのB細胞分化誘導で抗体IgM産生抑制に着目して解析を進め,以下の結果を得た。(1)E14.5胎仔肝臓 (Fetal Liver, FL)細胞から未分化造血細胞を単離して、OP9細胞上で培養してB細胞に分化させる過程で、IgH遺伝子座の転写活性や、B細胞分化に必要な転写因子などの遺伝子発現に関して、real time PCR法でもRNA-seqでも顕著な転写抑制は認められなかった。(2)同様に、Whsc1がV(D)J遺伝子組み換えに伴ったDNA損傷応答に関与する可能性を検討した。分化誘導後、遺伝子欠損による細胞増殖抑制が認められ、アポトーシスの増進が確認された。そしてIgHそしてコメットアッセイでゲノムDNAのダメージがWhsc1欠損によって集積している現場を捉える事ができた。(3)V(D)J遺伝子組み換えを起こす非相同組み換え(NHEJ)反応へのWhsc1の関与を検討するために、人工的に制限酵素I-SceI認識配列をGFP遺伝子と共にゲノムに組み込んだH1299細胞株にI-SceIを発現させて損傷修復活性を解析した。siRNAを用いてWhsc1をノックダウンするとNHEJ活性が顕著に抑制される結果が得られた。一方、相同組み換え効率を同様の方法で解析するHeLa細胞でWhsc1をノックダウンしても修復効率に影響は見られなかった。従ってWhsc1はNHEJ反応過程に機能すること示唆される。以上の結果から、転写因子と複合体を形成するWhsc1はV(D)J組み換えを含めた転写活性領域の2本鎖切断の非相同組み換え修復反応に直接関与するモデルをここに提唱する。
3: やや遅れている
細胞死と細胞増殖の相反する現象を劇的に起こすB細胞分化過程で、細胞損傷集積を含めて、ヒストンメチル化酵素Whsc1欠損によるゲノム異常を明確に定量的に捉えることが極めて難しかった。実験系を上手くコントロールできるように培養条件を検討し、実験の再現性を得るまでに、予想以上の時間を要した。ヒストン修飾酵素の欠損によるV(D)J組み換え異常は、完全な修復阻害ではなく修復効率の低下になるため、定量的に異常を示す必要があった。ところが着目する免疫グロブリン遺伝子座は繰り返し配列が連続しており、しかも変異が蓄積しているために定量的に異常を示すために、複数の解析を検討して最善の方法に到達するまでに時間を要した。
Whsc1欠損によるゲノム組み換え異常の定量的な解析結果をまとめる。さらにゲノム組み換えが起こる免疫グロブリン遺伝子座に焦点を絞ってB細胞分化過程における、Whsc1、ヒストンH3K36メチル化の分布をくChIP法で明らかにする。さらに組み換え異常をPCR法に加えて、次世代シークエンサーを用いて塩基配列レベルで検証する。以上の3点を明らかにして、転写と共役したDNA損傷応答にWhsc1が機能するモデルをまとめる。
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