研究実績の概要 |
ヒストンH3,36番目のリシン残基のメチル化(H3K36me)は、種を越えてゲノム全体で進行中の転写活性領域に分布を示すが、転写との直接の繋がりが未だに判然としない。哺乳類でヒストンH3K36me活性が確認された5種類の酵素の中でWHSC1は成長遅延、精神遅滞を示す4p-症候群の原因遺伝子である。私達はH3K36me酵素Whsc1がDNA損傷応答因子と複合体を形成し、その欠損マウスが転写とDNA損傷修復が共役して分化が進行するB細胞分化過程で異常を示すことを見出し、Whsc1が転写とDNA修復の分子共役に関与するのではないかとの仮説をもとに研究を進めた。造血幹細胞からストローマ細胞との共培養でex vivoでB細胞に分化させ、分化段階を追って、 V(D)J組み換え、免疫グロブリン遺伝子座の転写、そしてDNAの損傷を詳細に解析した。その結果、免疫グロブリン軽鎖 (Igh) 遺伝子座の転写は活性化されているが、組み換えが上手く行かないことが分化異常の原因であることが示唆された。そこで、Whsc1欠損マウスにV(D)J組み換えが完了した遺伝子をB細胞で発現するトランスジェニックマウスを交配して、骨髄移植でB細胞分化を見たところ、Whsc1欠損による分化異常が野性型とほぼ同程度に回復した。この結果はWhsc1がV(D)J組み換えに機能していること示しており、ヒストンH3K36メチル化酵素が転写とDNA損傷応答の分子カップリングに関与する私達のモデルを支持する。
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