研究領域 | ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構 |
研究課題/領域番号 |
22131004
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井倉 毅 京都大学, 放射線生物研究センター, 准教授 (70335686)
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キーワード | TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体 / ヒストンH2AX / NBS1 / MDC1 / H2AX eviction / ADP-リボシル化 / アセチル化 / ヒストンシャペロン |
研究概要 |
我々は、TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体がヒストンバリントH2AXを損傷クロマチンから放出(eviction)されることを明らかにしている。本研究課題は、TIP60複合体によるH2AXのクロマチンからの放出というヒストンH2AXの動的な変化からDNA損傷初期シグナルの分子機構を明らかにすることを目的としている。DNA損傷応答の初期シグナルの活性化の分子メカニズムとして、DNA損傷末端に結合したNBS1が、リン酸化酵素ATMを損傷部位に誘導し、その後にATMによってH2AXがリン酸化され、このH2AXのリン酸化に結合するアダプター因子MDCIが再びNBS1をクロマチン上に誘導し、このサイクルがDNA損傷応答シグナルの増幅、維持をおこなうというモデルが提唱されている。我々は、H2AXのevictionを制御するTIP60によるH2AXのアセチル化が、NBS1と損傷クロマチンとの結合を制御していることを生化学的に明らかにしたが、本年度は、この知見をさらに深め、TIP60によるH2AXのアセチル化は、NBS1のDNA損傷初期の損傷部位への誘導に関与しているのではなく、MDC1を介したNBS1の損傷部位での維持に必要であることを明らかにした。またこれらの知見に加え、H2AXのevictionを制御する因子としてTIP60と協調的に働くと予想されるADP-リボシル化酵素PARP-1とヒストンシャペロンに加え、エネルギー代謝経路に関連した因子を同定し、実際にこれら因子がH2AXのevictionに関与していることをiFRAP実験により明らかにした。さらにエネルギー代謝経路がTIP60のH2AXのアセチル化によって制御されていることを明らかにし、DNA損傷応答シグナル活性化における新たなエピジェネティク制御の存在を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、TIP60のH2AXのアセチル化によって引き起こされるH2AXのクロマチンからの放出の分子機構とDNA損傷応答初期シグナル活性化における役割を明らかにすることである。これまでのTIP60およびH2AX複合体のプロテオミクス解析からH2AXのクロマチンからの放出に関して、TIP60と協調的に働く因子群を同定した。その中にDNA損傷応答シグナルとエネルギー代謝経路との関連を示唆する因子が含まれており、DNA損傷応答シグナル活性化における新たなエピジェネティク制御が存在するという知見も得ることができた。またH2AXのクロマチンからの放出のDNA損傷初期応答シグナル活性化の役割がDNAセンサー蛋白質NBS1の維持であるということも明らかになり、本年度の研究目標は達成された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によってTIP60によるH2AXのアセチル化のDNA損傷初期応答シグナル活性化における役割の全貌が明らかになりつつある。H2AXの研究は、H2AXのリン酸化を中心に行われてきたが、我々の研究結果からH2AXの機能を制御する化学修飾は、リン酸化だけではなく、H2AXのアセチル化もDNA損傷応答シグナルの活性化に重要な役割をもつことが示された。今後は、H2AXのアセチル化とリン酸化カスケードがどのような関係にあるのかを詳細に解析し、クロマチンの動的変化によって引き起こされるDNA損傷初期応答シグナルの分子機構をさらに解明していきたい。またこれらの研究から得られたアセチル化を介した新たなDNA損傷応答シグナルが、がん抑制あるいは老化シグナルとして働くか否かを現在作製中であるH2AXのアセチル化部位変異ノックインマウスで検証していく予定である。
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