研究領域 | ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構 |
研究課題/領域番号 |
22131004
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井倉 毅 京都大学, 放射線生物研究センター, 准教授 (70335686)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体 / ヒストンH2AX / H2AX eviction / アセチル化 / ADP-リボシル化 / プロテアソーム蛋白質分解系 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体によるヒストンバリアントH2AXのクロマチンからの放出という我々が見出した独自の知見に基づき、ヒストンH2AXの動的な変化を介したDNA損傷初期シグナルの分子機構を明らかにすることを目的としている。これまでに我々は、ヒストンH2AX複合体のプロテオミクス解析を行い、ADP-リボシル化酵素PARP-1, ヒストンシャペロンFACT, NAD合成酵素、プロテアソームの構成因子などを同定し、 以下の研究結果を得た。1.ヒストンアセチル化酵素TIP60による H2AXのアセチル化が、NAD合成酵素のDNA損傷領域への誘導を制御することをクロマチン免疫沈降法により示し、このNAD合成酵素のDNA損傷領域への集積がDNA損傷部位局所でのNADの産生を高め、これによりADPリボシル化酵素PARP-1がDNA損傷領域で活性化されることを明らかにした。さらにDNA損傷領域で活性化されたPARP-1は、ヒストンシャペロンFACTのクロマチン結合へのダイナミクスを制御し、このFACTのダイナミクスが、H2AXをクロマチンから放出されるのに必要であることを明らかにした。また放出されたヒストンH2AXのDNA損傷応答シグナルにおける役割として、2. TIP60が、プロテアソームによるDNA損傷応答シグナルの活性化に必要なチェックポイント蛋白質の分解を制御することを示し、この分解が、S期での相同組換え修復(HR)の誘導に必要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H2AX複合体の構成因子であるADP-リボシル化酵素PARP-1とヒストンシャペロンFACTに着目し、TIP60によるH2AXのアセチル化とNAD代謝のカップリングが、クロマチンの動的変化を制御することを見出し、TIP60によるH2AXのクロマチンからの放出の分子機構の一端を明らかにした。さらにH2AXが、クロマチンから放出される意義として、H2AXの動的変化が、ユビキチンプロテアソーム蛋白質分解系の活性化に重要であることを突き止め、DNA損傷応答シグナルのFine tuningの必要性を提示し、クロマチンの動的変化によるDNA損傷応答シグナル活性化のエピジェネティック制御機構の一端を明らかにできた。H2AXのクロマチンからの放出の分子機構の一端が解明されつつあり、またヒストンH2AXのアセチル化によるヒストンH2AXのクロマチンからの放出の意義も明らかになりつつあり、研究はおおむね順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によってTIP60ヒストンアセチル化酵素複合体によるヒストンH2AXのクロマチンからの放出の分子機構と放出されたH2AXのDNA損傷初期応答シグナル活性化における役割が少しずつ明らかになりつつあるが、今後の研究方針として、これらの事実をもとにクロマチンから放出されたヒストンH2AXが、がん抑制シグナルとして働くことを示し、クロマチンダイナミクスの視点から新たなゲノム疾患研究の基盤構築を行っていきたい。具体的には以下の項目について行う。 1. TIP60によるH2AXのアセチル化によって活性化されるNAD代謝経路の同定。 2. TIP60によるH2AXのアセチル化が、ユビキチン-プロテアソーム蛋白質分解系を活性化する分子機構を明らかにし、S期でのHRへの誘導機構の解明を行う。 NHEJ関連因子53BP1の誘導に関与するヒストンメチル化酵素Whsc1に着目して、DNA修復機構の選択 (HRとNHEJ)機構の解明につなげる(浦班員との共同研究)。 3. 関班員のヒストン変異ライブラリーの解析情報を基にH2AXのクロマチンからの放出が、高次レベルでのクロマチン構造変換機構に関与するか否かを検証する。 4. がん細胞では、NAD代謝経路の破綻が生じていることが知られているが、それに加えNAD代謝経路が、DNA損傷応答シグナルの活性化に影響するという我々の実験結果とを合わせて考えれば、NAD代謝の破綻によりDNA損傷応答シグナルの不具合が生じ、これによって細胞内で変異が蓄積する可能性がある。これをHPRT遺伝子の変異解析および次世代シーケンサーを用いたExosome解析などを行ない(河野班員との共同)、これまでの研究成果をがん研究へと発展させる。
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