研究領域 | ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構 |
研究課題/領域番号 |
22131005
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安井 明 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (60191110)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | クロマチンリモデリング / 二重鎖切断 / DNA修復 / 癌治療 / 転写 |
研究概要 |
種々のクロマチンリモデリング(CR)は転写制御の機構として知られているが、DNA修復にも関わっているなら、細胞内での修復機構、細胞の感受性や癌化、癌治療にも影響する可能性がある。我々はKUの集積が観測出来る、二重鎖切断 (DSB)をI-SceIでゲノム上の近傍に多数作る細胞系 U2OS/TRE/I-SceI-19を開発し、CR因子のDSBへの集積を調べ、ATP依存的なCRのISWI複合体がDSBのNHEJ修復に必要である事を示した。最近の癌細胞ゲノムsequencingによってSWI/SNF複合体のvariant因子であるARID1Aの種々の癌細胞での高頻度変異が報告された。そこでこれらの因子とDSB応答の関係を調べた。ARID1BはARID1Aのパラローグであり、転写ではARID1AとARID1Bは同時に働かない。しかし、DSBの応答ではいずれもNHEJに必要で、いずれかが欠損するとKUの集積が減少する。これらはSWI/SNFファミリーの因子と共にNHEJに必要であり、細胞のX線抵抗性に必要である (Watanabe et al. Cancer Res. in press)。この分子機構を調べたところ、KUとARID1Aは直接に結合することが分った。SWI/SNF因子の欠損細胞はシスプラチンや紫外線にも感受性になる。その機構と癌治療への応用について議論する。もう一つは、ヒト細胞でのDSBによる転写抑制の機構についてである。転写はその近傍で生じたDSBにより抑制されることが示されているが、その機構は分っていない。U2OS/TRE/I-SceI-19の細胞系を用いて転写を誘導し、近傍にDSBを入れ、転写への影響とタンパク質の集積を同時に観測すると、DSBに応答して活性化するATMが転写を制御する機構が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
すでに論文としてCancer Researchに発表される事が決まっているが、ARID1AといくつかのSWI/SNF因子がDNA二重鎖切断のNHEJによる修復の際のKUタンパク質の集積に必要であり、これらが欠損すると細胞はNHEJが充分に行なえず、X線に感受性となる。これらの因子は種々の癌細胞で発現の欠損や変異が見られる事が分り、癌細胞の弱点である事が分った。この分子機構に着いても一部が分り、これから論文を作成する。さらに、もう一つの成果として、転写が進行している近傍に二重鎖切断が生じたときには転写が抑制される事が報告されていたが、その機構は分っていなかった。今回、転写の促進因子自体が二重鎖切断によって活性化されたATMにより修飾を受け、転写を抑制する機構を明らかにした。このように、基礎的な修復応答の研究成果と癌治療に繋がる事が期待される成果が出た事は当初望んだ事であるが、一気に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
ARID1AやSWI/SNF因子の癌細胞での発現欠損が高頻度で欠損していることから、これらが修復欠損である我々の発見を効果的に使って、これらの癌細胞が正常細胞よりもX線やシスプラチン等にさらに高感受性になるもう一つの欠損を見つける必要がある。そのために、まず75種類のクロマチンリモデリング因子に対するsiRNAを使って、ARID1Aをノックアウトした細胞でこれらのノックダウンの影響がX線やシスプラチンに対して超高感受性になるSynthetic hiper-sensitivity のターゲットをスクリーニングして見つけ出す。二重鎖切断の転写への影響はその機構のさらに詳しい解析が必要である。
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