計画研究
種々の脊椎動物種におけるゲノム配列の解読完了や、次世代シークエンサーの開発などの技術革新により、比較ゲノム解析、エピゲノム解析や発現制御の解析などが急速に進展した。それらのデータ解析を通して、ゲノムスケールで具体的かつ基本的な生命現象である「性差」を解析対象とすることが可能になった。本研究は、ゲノム情報の解析にもとづき、脊椎動物全般に共通、あるいは動物種に固有の性差構築メカニズムを解明することを目的として、以下の研究を行う。(1)性差構築を支配するシスエレメント群や遺伝子群を協調的に機能させるメカニズムの解明(2)トランスクリプトームに見られる性差(3)エピゲノムに見られる性差本年度は、これまでに計画研究1(諸橋)や計画研究5(山田)のところで得られているChIP-seqやRNA-seqのデータをもとに、生殖細胞での特異的遺伝子発現に関与しているエンハンサーの同定を進めた。また、これまでヒトB細胞における大規模RNA-seqデータをもとに遺伝子発現に見られる性差の解析を行なってきており、ヒトB細胞においても遺伝子レベルで有意な発現差の存在を示すことができた。今後はさらに詳細な解析、すなわち遺伝子毎から一歩進め、スプライスバリアント毎に性差が存在するかについての解析を進める。遺伝子毎の解析では転写活性のみが対象となっていたが、スプライスバリアント毎の解析を行なうことで、スプライス制御における性差に関する知見が得られるものと期待できる。さらに、計画研究6(田中)と協力して、メダカにおける性差とDNAメチル化の解析に着手した。
2: おおむね順調に進展している
ChIP-seqやRNA-seqのデータに加え、ゲノムアライメントを用いた比較ゲノム解析も加味することで、生殖細胞での特異的遺伝子発現に関与しているエンハンサーを包括的に同定することが可能となった。また、性差特異的な遺伝子発現パターンの解析やエピゲノム(DNAメチル化)の解析も順調に進んでいると言える。
これまでのChIP-seqやRNA-seqといったゲノムワイドで包括的な解析から、性差に関連したより高次の遺伝子発現ネットワークの解明を進める。このようにして得られたネットワークについては実験的な検証も重要である。そこで、共同研究を進めている実験グループとの連携を密にとることで、効率的な研究の推進を図る。また、バイサルファイトによる残基レベルでのシトシンメチル化の解析を進めているが、データ解析方法はまだ非常に新しいもので、様々なグループが改良を進めている段階でもある。常に最新の動向に留意することが重要であると考えている。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
J.Hum.Genet.
巻: 56 ページ: 572-576
10.1038/jhg.2011.60