研究領域 | 性差構築の分子基盤 |
研究課題/領域番号 |
22132005
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
須山 幹太 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (70452365)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 比較ゲノム / 転写調節 / エピゲノム / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
種々の動物種におけるゲノム配列の解読完了や、次世代シークエンサーの開発などの技術革新により、比較ゲノム解析や発現制御解析などが急速に進展した。それらのデータ解析を通して、ゲノムスケールで具体的かつ基本的な生命現象である「性差」を解析対象とすることが可能になった。本研究は、ゲノム情報解析にもとづき、動物種全般に共通、あるいは動物種に固有の性差構築メカニズムを解明することを目的としている。以下に平成24年度における具体的な研究実績を挙げる: ①性差構築を支配するシスエレメントと遺伝子の同定:エストロゲン受容体のChIP-seqデータを用い、そのゲノム上での結合部位を網羅的に取得した。それらの結合部位の配列に対し、共通して見られるモチーフを探索することでエストロゲン受容体の認識配列(シスエレメント)だけでなく、その共役因子と推測されるモチーフも得られることが明らかになった。このことは、今回の方法が新規共役因子の探索に活用できることを示している。 ②トランスクリプトームに見られる性差:ヒトB細胞のRNA-seqのデータから、体細胞であるB細胞においても遺伝子発現の性差が見られることを明らかにした。今後は、発現性差をもたらすメカニズムの解明を目指す。 ③領域内における共同研究の推進:研究計画1(諸橋)と転写因子であるAd4BP/SF-1に関して、さまざまな条件でのChIP-seqデータを解析することで(1)その発現制御における性特異的エンハンサーの探索、および(2)その標的遺伝子の同定を行った。計画研究5(山田)とは生殖器形成において重要な働きをすると考えられるエンハンサーの探索を、比較ゲノム解析をもとに進めており、候補領域の絞り込みにおいて成果が得られた。計画研究6(田中)とはメダカDNAのメチル化解析を開始し、データの取得およびその解析パイプラインの構築をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
領域内の他の研究グループは主に実験生物学の研究室であり、このような領域チームの中でデータ解析専門のグループとして、他の研究グループと共同研究を進めていることは、この領域の特色の一つであると言える。特に、ビッグデータの時代と言われる現代において、公開されているゲノム・エピゲノムデータも有効に活用したアップトゥーデートな解析は、今後の分子生物学研究には欠かせないものであるといえる。 実験生物学のグループとデータ解析のグループが共同で研究を進める上では、お互いのバックグラウンドを理解するとともに、実際にディスカッションの機会を持つことで共通の目標へ共に進むことが重要である。これまでのところ定期的に密なディスカッションができており、着実な進展がみられる。たとえば、比較的新し技術であるバイサルファイト法によるゲノムワイドなDNAメチル化解析を、研究計画6(田中)との共同研究で進めているが、すでにデータ解析パイプラインも構築した。テストランにおいて、他のグループの別法によるメチロームデータと比較したが、非常に高い相関が得られたことから、実験手法のみならずデータ解析法も含め、十分妥当なシステムを構築したと言える。今後は我々のオリジナルなサンプルのデータ解析をおこなうことで、性差の構築・維持に関する新たな知見の獲得を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
領域の進行に伴い、ENCODEや国際エピゲノムコンソーシアムなどによるヒストン修飾やDNAメチル化などのエピゲノムデータの蓄積が急速に進展している。それらのデータは遺伝子発現制御の理解において決定的に重要なものであり、その有効活用が今後の研究遂行の上で大きなカギとなる。 また、データの蓄積だけでなく、その解析手法の進歩も目覚ましいため、一度構築したデータ解析パイプラインであっても、常に見直す必要がある。そのため、構築したデータ解析パイプラインを適宜修正し、効率的なデータ解析を促進する。 これまでの本研究全般を概観すると、未だ個別の事例の研究が多い。今後は領域としての研究期間の後半となるので、それらを統合・俯瞰した形の研究へとシフトする必要があると考えている。すなわち、本研究の大きな目的である、動物種全般に共通、あるいは動物種に固有の性差構築メカニズムの解明へとつながる研究である。より具体的には、比較ゲノム解析の中でも進化的な観点を強調した、性差に関する遺伝子発現制御の解明を目指す。
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