計画研究
種々の動物種におけるゲノム配列の解読完了や、次世代シークエンサーの開発などの技術革新により、比較ゲノム解析や発現制御解析などが急速に進展した。それらのデータ解析を通して、ゲノムスケールで具体的かつ基本的な生命現象である「性差」を解析対象とすることが可能になった。本研究は、ゲノム情報解析にもとづき、動物種全般に共通、あるいは動物種に固有の性差構築メカニズムを解明することを目的としている。以下に平成25年度における具体的な研究実績を挙げる:①性差構築を支配するシスエレメントと遺伝子の同定:ChIP-seqのデータからピークを同定し、そのピーク領域に相当するゲノムアライメントを高速に取得するためのプログラムの開発を行った。今後、このプログラムをウェブサーバに実装し公開することで、その有用性を広くアピールする。さらにこのプログラムを用い、エストロゲンレセプターなど、性差に直結すると考えられる転写因子の結合部位について、その進化的保存性についての解析を進める。②領域内における共同研究の推進:研究計画1(諸橋)との共同研究で、Y1細胞におけるAd4BP/SF-1のChIP-seq解析およびRNA-seqによる発現解析のデータをもとに、その標的遺伝子のバイオインフォマティクス的な解析から、Ad4BP/SF-1が解糖系の一連の酵素群の発現制御を行っていることを見いだした(Baba et al. 2014)。計画研究5(山田)とは器官形成において重要な働きをすると考えられる転写因子の新たな発現制御機構を解明した(Villacorte et al. 2013)。計画研究6(田中)とはメダカの性決定に重要と考えられるDNAのメチル化解析を進めているが、平成25年度はRNA-seqによる発現解析も同時に進め、それらの複合的解析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、領域内共同研究の成果として、Ad4BP/SF-1が有する新規遺伝子発現ネットワーク制御機能の発見(Baba et al. 2014)や、器官形成における新たな転写制御機構の解明(Villacorte et al. 2013)が挙げられる。また、自身の計画研究グループからも哺乳類における新たな選択的スプライシング制御機構の発見があり(Suyama 2013)、今後、トランスクリプトームに見られる性差の解析、たとえば性特異的なスプライスアイソフォームの解析、への発展が期待できる。このように、当初の計画に沿った業績が上がっており、研究が順調に進展していると言える。今後はこの領域オリジナルなサンプルのデータ解析に加え、公共データベースに登録されているエピゲノム情報を有効に活用することで、性差の構築・維持に関する新たな知見の獲得を目指す。
最終年度となる本年度は、複合的なデータ解析をさらに推し進め、性差を構築する高次な分子基盤の解明を目指す。まず、ChIP-seqにより得られた転写因子結合部位の情報から、ゲノムアライメントを活用することで実際の結合配列(シスエレメント)を網羅的に取得し、それをリスト化する。さらに、RNA-seqによる遺伝子発現情報やヒストン修飾についてのChIP-seqデータを複合的に解析することで、遺伝子発現制御に関するネットワーク構造を明らかにする。それには、領域内データの活用はもちろんであるが、ENCODEやIHECをはじめとする国際的なエピゲノムプロジェクトが公開している大量のエピゲノムデータを積極的に活用することが研究遂行上のカギとなる。これらのデータを統合的に解析することで性差の発現・維持に関連した遺伝子発現制御機構の解明やその分子進化学的な多様性を明らかにする。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件)
Nat. Commun.
巻: 5 ページ: 3634
10.1038/ncomms4634
Bioinformatics
巻: 29 ページ: 2084-2087
10.1093/bioinformatics/btt368
Oncogene
巻: 32 ページ: 3477-3482
10.1038/onc.2012.376