計画研究
1.HLAクラスII(HLA-II)結合性ペプチドの推定アルゴリズムを利用したTh1細胞の認識エピトープの同定(西村)最近、海外の研究者グループが、1万種類以上のペプチドの多様なHLA-II分子への結合親和性の解析結果をもとに、蛋白質の一次構造より特定のHLA-II分子に結合するペプチドを推定する優れたアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムを利用して、日本人で頻度が高いHLA-II分子に結合する癌抗原由来のペプチドを推定して合成し、ヒト末梢血中のCD4^+T細胞を刺激することにより、Th1細胞を誘導できるものを複数同定した。さらに、これらのTh1細胞が樹状細胞の存在下に、組換癌抗原に対して免疫応答を示すことを確認し、このようなTh1細胞が腫瘍免疫を担いうることを示した。2.HLA-II-Tgmの樹立とHLA-H拘束性マウスT細胞応答の解析系の確立(入江、西村)マウスのCD4^+T細胞が十分に認識できるように、ペプチドを収容するα1とβ1ドメインはHLA-DR4に、またα2ドメインおよびマウスCD4分子が結合するβ2ドメイン以下は、マウスI-E^d分子に由来するキメラHLAクラスII分子を、I-E^d遺伝子のプロモーター下に発現する遺伝子を作製して、キメラHLA-DR4-Tgmを2系統樹立した。このマウスにHLA-DR4拘束性Th細胞が認識する、既知の抗原ペプチドを免疫することにより、in vivoにおける抗原ペプチド特異的かつHLA-DR4拘束性Th細胞の免疫応答を観察できる実験系を確立した。2系統のHLA-DR4 Tgmでは、交配結果よりHLA-DR4遺伝子がY染色体あるいは常染色体に組み込まれていると考えられた。常染色体連鎖HLA-DR4-Tgmについて、HLA-DR4遺伝子をホモ接合にすると、下痢と著明な体重減少を伴う大腸炎を自然発症することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通りに、がん抗原由来のペプチドで日本人集団で頻度が高いHLA-II分子に結合して、腫瘍免疫を担うTh1細胞を誘導できるものを複数同定できた。また、これらのTh1細胞エピトープペプチドのあるものは、すでに我々が同定した、HLA-A2あるいはHLA-A24拘束性細胞傷害性T細胞(CTL)が認識する、エピトープペプチドを内包することが判明した。さらにHLA-II(HLA-DR4)トランスジェニックマウスを樹立し、これにHLA-DR4によりT細胞に提示されることが既知の抗原ペプチドを接種することにより、確かにHLA-DR4拘束性マウスTh1細胞を誘導できることを証明できた。今後、このHLA-DR4トランスジェニックマウスを利用することにより、簡便かつ迅速にがん抗原のTh1細胞エピトープを同定できる体制が整った。また予期せぬこととして、常染色体性HLA-DR4ホモ接合Tgmが、自己免疫性と推測される大腸炎を発症したため、大腸炎の病因解明に繋がる可能性があるマウスを手にすることが出来た。
今後は、同定したTh1細胞が認識する癌抗原ペプチドのうち、すでに我々が同定したHLA-A2あるいはA24により提示され、癌細胞を傷害するCTLを誘導できるペプチドを内包するものについて、これらがTh1細胞のみならず、樹状細胞によるcross-presentationによりCTLをも活性化できるか否かについて検討する。これには、ヒトの細胞を用いたin vitro実験系ならびに、HLA-A2あるいはHLA-A24トランスジェニックマウスを用いたin vivo実験系を利用する。さらに、CTLエピトープとTh1細胞エピトープとの併用により、CTLの誘導効率が高まるかどうか検討して、癌免疫療法におけるTh1細胞エピトープペプチドの有用性を検討する。また、既に樹立した2系統のHLA-DR4 Tgmを利用して、より多くのHLA-DR4拘束性Th1細胞エピトープを同定する。さらに常染色体性HLA-DR4ホモ接合体Tgmが発症する大腸炎について、病理学的解析や免疫学的解析を駆使して、HLA-DR4の発現と大腸炎発症機序との関係について解析し、炎症性大腸疾患のモデルになるか否かを検討する。
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British Journal of Cancer
巻: 104 ページ: 300-307
Cancer Science
巻: 102 ページ: 71-78
巻: 102 ページ: 697-705
http://www.medic.kumamoto-u.ac.jp/dept/immunoge/immunoge.html