研究領域 | 先端技術を駆使したHLA多型・進化・疾病に関する統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22133005
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
西村 泰治 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (10156119)
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研究分担者 |
入江 厚 熊本大学, 生命科学研究部, 講師 (30250343)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | HLAクラスI分子 / HLAクラスII分子 / がん抗原ペプチド / 細胞傷害性T細胞 / ヘルパーT細胞 / HLAトランスジェニックマウス / 腫瘍免疫 / がん免疫療法 |
研究実績の概要 |
① CTL誘導活性を有するTh1細胞エピトープの同定 (西村) 昨年度に我々は、がん抗原CDCA-1およびKIF-20Aに由来し、日本人集団で頻度が高いHLA-クラスⅡ分子に結合して、ヘルパーT (Th1)細胞を誘導可能なlong peptide (LP)を複数同定した。これらのうち、すでに我々が同定したHLA-A2あるいはA24拘束性で、がん細胞を傷害する細胞傷害性T細胞 (CTL)を誘導可能なshort peptide (SP) のアミノ酸配列を内包するものが、Th1細胞のみならず樹状細胞によるcross-presentation を介して、CTLをも活性化できることを発見した。さらに、このようなLPを HLA-A2/A24-Tgmに免疫したところ、SP単独よりもCTLの誘導効率が高いLPが存在し、癌免疫療法におけるLPの有用性を示した。
② HLA-DR4 Transgenic mouse (Tgm)を利用したHLA-DR4拘束性マウスTh細胞応答系の確立 と同Tgmに発生する免疫異常の解析(入江、西村) 昨年度にHLA-DR4遺伝子がYあるいは第3染色体に組み込まれた、2系統のTgmを樹立した。これらのHLA-DR4 Tgmに、HLA-DR4に結合することが既知のがん抗原やウイルス抗原ペプチドを免疫したところ、ペプチドに特異的なHLA-DR4拘束性Th細胞応答が誘導された。このTgmを利用してTh細胞が認識する抗原ペプチドの迅速な同定、ならびにin vivoにおけるHLA-DR4拘束性Th細胞の免疫応答評価系を確立した。第3染色体連鎖HLA-DR4 Tgmではtransgeneをホモ接合にすると、下痢と著明な体重減少を伴う大腸炎を自然発症することが分った。この原因を探るべく、HLAトランスジーンの挿入部位をFISH法により確定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん抗原特異的なCTLのみならず、Th1細胞をも併せて活性化することは、強力な抗腫瘍免疫を誘導するうえで重要である。このため今年度は、がん抗原由来の既に同定したペプチドのうち、日本人集団で頻度が高いHLAクラスⅡ分子に結合して、腫瘍免疫を担うTh1細胞を誘導可能なlong peptide(LP)のうち、HLA-A2あるいはHLA-A24拘束性CTLが認識するエピトープを内包するものについて、当該がん抗原特異的にがん細胞を傷害するCTLを誘導できるか否かを検討する計画であった。検討したLPの一部は予想通りに、同一がん抗原を認識するTh1細胞とCTLを併せて誘導することが確認できた。また樹立したHLA-DR4トランスジェニックマウス(Tgm)を用いて、Th細胞が認識する抗原ペプチドの迅速な同定、ならびにin vivoにおけるHLA-DR4拘束性Th細胞の免疫応答の評価が計画通り可能となった。 また予期せぬこととして、トランスジーンホモ接合HLA-DR4 Tgmが、自己免疫性と推測される大腸炎を自然発症したため、大腸炎の発症とHLA-DR4の発現との関係について解析を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、腫瘍を傷害するCTLを誘導可能なshort peptide単独よりも、より抗腫瘍活性が強い、腫瘍特異的なTh1細胞をも併せて誘導可能なlong peptideを多数検討し、奏功率の高い理想的ながんペプチドワクチン療法に利用可能なものを選定する。このために、ヒトの細胞を用いたin vitro実験系ならびに、HLA-A2、HLA-A24およびHLA-DR4 Tgmを用いたin vivo実験系を利用する。 また、大腸炎を自然発症するトランスジーンホモ接合HLA-DR4 Tgmについて、HLA-DR4の発現と大腸炎発症機序を明らかにする目的で、全ゲノムシークエンス法によりHLAトランスジーンのマウス染色体上の挿入部位を確定するとともに、大腸その他の組織の病理学的解析や免疫学的解析を行う。
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