研究領域 | 先端技術を駆使したHLA多型・進化・疾病に関する統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22133007
|
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
颯田 葉子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20222010)
|
研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
|
キーワード | 平衡選択 / ペプチド結合領域 / 進化速度 / 超優性選択 / DAAモデル |
研究概要 |
現在のHLAの多様性は過去数百万年、あるいはそれ以上にわたりアフリカという環境の中でヒトが出会った細菌やウィルス等のパソジェンとの共進化の結果でき上がってきた。しかし、現生人類の集団は、HLAの歴史に比較すると非常に短時間であり、その間にアフリカから全世界へ生息環境を拡大させていった。その過程で、アフリカでは出会うことのない地域特異的なウィルスや細菌に遭遇しそれらの新たなパソジェンにも適応していったことは想像に難くない。長い時間をかけて作り上げられてきた多様性と、短期間で適応する必要があった地域の特性という、異なる進化学的な力のもとで、どのようにして現在のHLA の多様性が形成されてきたかをHLAのハプロタイプという観点から特に民族特異的なハプロタイプに着目し、その歴史を明らかにするとともに、ハプロタイプの多様性について、その維持機構を集団レベルと分子レベルの両面から明らかにする。そのために本年度は、HLAのペプチド結合領域(Peptide Binding Region:PBR) の進化パターンを明らかにするために、次の2つの解析を行った。 1)PBRでのアミノ酸を変化させる塩基置換の時間による変化率を調べた。その結果、変化率は、一定ではなく、平均より速く変化する系統と遅く変化する系統が存在することが明らかになった。このように変化率が系統依存的に変化するのは、HLA分子に対する自然選択の強さが系統間で一定ではないことを示している。 2)HLA分子に働く自然選択の強さが、系統間のPBRのアミノ酸の違いの程度に相関するというモデル(DAAモデル:divergent allele advantage)が、実際のデータと一致するかどうかの検討をコンピュータシミュレーションを通しておこなった。その結果、このDAAモデルでは、実際のデータとは整合しないことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MHC分子の進化を考える際にもっとも重要と思われるペプチド結合領域の分子進化学的特性を明らかにすることができた。平成26年度は、これを発展させて、最終目的である、ハプロタイプの維持機構の解明を目指す。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度までに、MHCの対立遺伝子とその結合ペプチドに関する解析を行ってきた。 平成26年度は、これを発展させて各MHC対立遺伝子に特異的に結合するペプチドおよびその由来する微生物を明らかにし、MHC分子とパソジェンとの関係性という点に着目し、MHCの分子進化に働く自然選択の力の実態を明らかにする。また、MHC遺伝子座が複数存在するハプロタイプを維持する機構を明らかにするために、平衡選択が働いている複数の遺伝子座が連鎖している場合の各遺伝子座の相互作用(interference) をコンピュータシミュレーションで明らかにしていく。また、実際の民族特異的なハプロタイプ(日本人、欧米人)について、それぞれのハプロタイプが形成されてきた過程を復元する方法を探る。
|