研究実績の概要 |
同種造血幹細胞移植により生じる移植片の拒絶や移植片対宿主病(GVHD)、移植片対白血病効果(GVL)は、組織適合性抗原の異なる他者の造血幹細胞をいわば人工的に患者に移植することにより生じている。これら反応は、非自己のアロ抗原を認識すると考えられ、ドナーと患者のHLAの違いとの関連は一部臨床的に明らかにされているが、これら移植免疫反応の機序の解明を目的とした。今年度は、非血縁者間骨髄移植約8000ペアーにつき免疫遺伝学的解析を実施した。その結果、各HLA座不適合のリスクで、有意(p<0.01)を示したのは,3度以上の急性GVHD:HLA-A, B, C, DPB1、慢性GVHD:HLA-C、GVL効果:HLA-C, DPB1であった。また、HLA-DRB1あるいはDQB1単独の不適合では急性GVHDの発症に影響を与えてないが、HLA-DRB1とDQB1両者の不適合があると有意に急性GVHDの頻度が高くなり、移植後の死亡率は高くなることが判明した。これは、両抗原が関与することによりはじめて重症急性GVHDが生じることを示しており、GVHDの発症機序としてHLAクラスⅡの基礎的研究に寄与するものと考えられた。 さらに、患者及びドナーのHLAアリルやハプロタイプそのものと移植後の急性GVHDの関連を解析した。頻度が5%以上あった43アリルの中で、患者とドナーのHLA-A*33:03, -C*14:03, -B*44:03, -DRB1*13:02, -DQB1*06:04は有意に急性GVHD 2-4度のリスクが低いことと関連し、この5つのアリルが属する日本人で2番目に頻度の高いハプロタイプも同様な関連を示した。一方、患者とドナーのHLA-B*51:01と患者のHLA-C*14:02は有意に急性GVHD 3-4度のリスクが高いことと関連し、患者あるいはドナーのHLAアリルやハプロタイプそのものが移植後の同種免疫反応と関連することが示された。有意な関連を示したアリルやハプロタイプは、自己免疫疾患との関連が報告されており、自己免疫や同種免疫のメカニズムを考える上で有用な知見と考えられた。
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