研究領域 | システム的統合理解に基づくがんの先端的診断、治療、予防法の開発 |
研究課題/領域番号 |
22134002
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
稲澤 譲治 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (30193551)
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研究分担者 |
小崎 健一 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (50270715)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がん / 分子標的 / がん遺伝子 / がん抑制遺伝子 / システム生物学 / 遺伝子ネットワーク / ゲノム / エピゲノム |
研究実績の概要 |
がんの統合的ゲノム・エピゲノム解析と治療標的分子シーズの探索を推進するために、がん幹細胞、EMT制御異常、ならびに浸潤・転移に関する新規in vitro/in vivo実験モデル系を開発した。さらに、食道扁平上皮癌、大腸癌、子宮体癌、神経芽腫などの種々のがん腫を対象にゲノム・エピゲノム解析を実施して各種がんのオミックス解析技術とリソースを整備した。取得したがんオミックス情報に基づきシステム生物学的アプローチで、がん特性の分子機序を解明し、がん個性診断バイオマーカーや分子標的治療のシーズを探索した。その結果、肝細胞がん(HCC)のRNA創薬に有用ながん抑制遺伝子型miRNA(TS-miRNA)としてmiR-195とmiR-497を同定した。Argonute 2(Ago2)免疫沈降法と次世代シークエンサーでのRNA-Seqを組み合わせたRNA IP Seq法により、miR-195とmiR-497の標的遺伝子候補として、既報のCDK6、CyclinD1、E2F3に加えて、BTRC、CDC25A、CDK4、Cyclin D3、Cyclin E1を新規に同定した。 神経芽腫の自然退縮関連分子としてLAPTM5とこれを基質とするE3ユビキチンリガーゼのITCHを明らかにした。引き続き、オートファジー関連遺伝子であるヒトLC3(microtubule-associated protein 1 light chain 3, MAP1LC3)遺伝子ファミリー(LC3A, LC3B, LC3B2, LC3C)のうち、LC3AV1、LC3AV2のアイソフォームの存在ならびにLC3Av1がLC3ABと同じくオートファジーに関与することを明らかにした。LC3Av1は様々な癌種由来細胞株および食道癌臨床検体でDNAメチル化により高頻度に不活性化され、in vivo腫瘍形性にも関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新規の癌抑制性マイクロRNA,浸潤転移で重要な上皮間葉転換(EMT)に関わるマイクロRNAなど複数の癌関連マイクロRNAを明らかにした。神経芽腫自然退縮機構に関連するLAPTM5の蛋白分解酵素遺伝子を明らかにした。オートファジーに関わるLC3遺伝子のファミリー(LC3B, LC3Av1, LC3Av2, LC3C)とアイソフォームを同定し、種々の癌腫においてLC3Av1がDNAメチル化により機能消失していることを明らかにした。また、大腸癌のEMT関連転写因子SIX1の発見に続き、CDH1プロモーター制御GFP発現ベクターを構築し、その遺伝子導入膵癌細胞株PANC1を樹立し、これをツールに440種類の合成二本鎖miRNAライブラリーの中からCDH1プロモーターを負に制御するEMT関連のmiR-655を同定した。 また、オートファジー関連分子の体系的オミックス解析を実施してDNAメチル化によって遺伝子機能制御を受けるLC3Av1を同定した。LC3Av1はLC3Bとともにオートファジー制御因子であり、様々な癌種由来細胞株および食道癌臨床検体においてDNAメチル化により高頻度に不活性化していることを明らかにした。肝癌においてもネットワーク解析を駆使することで、抑制生miRNA(TS-miRNA)としてmiR-195とmiR-497を同定し、さらにその標的遺伝子群の探索により、miR-195の標的遺伝子としてCDK6、CyclinD1、E2F3に加えて、BTRC、CDC25A、CDK4、Cyclin D3、Cyclin E1を新規に同定した。in silicoネットワーク解析から、細胞周期関連遺伝子が協調的に機能変調を惹起し、増殖制御機構の破綻に至可能性が明らかになった。以上より、当初に予定した計画以上に進展し成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、マウスを用いたin vivo選択法により、好転移癌細胞株の樹立、さらに、種々の薬剤耐性化細胞株の樹立などが進んでおり、これら癌悪性形質(がん特性)解析ツールにより、全ゲノムオミクス解析を進め、計算科学に支えられたシステム生物学的解析により、癌細胞の脆弱性や薬剤耐性に直接関わるシグナル伝達経路、ネットワークの抽出からがん特性を直接制御するハブ分子、摂動因子の同定を目指す。また、今回の研究において、種々のがん特性とオートファジーの関連性が浮上してきた。少なくとも30種類はあると考えられているオートファジー制御遺伝子の複数において、遺伝子機能に変調をきたす癌特異的ゲノム構造異常やDNAメチル化異常が比較的高頻度に、かつ癌種によらず病型横断的に見出されてきている。これら、細胞株パネルをツールに合成致死性(synthetic lethality)やオートファジー経路に関与するがんの細胞文脈依存性に基づく抗がん創薬のスクリーニング系を立ち上げ、抗がん剤新規化合物のみならず、効果的抗がん剤併用療法の開発にも注力する。
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備考 |
がんCGH database、日本人CNV databaseを構築し、上記HPから研究者、社会人に公開しており、国内外研究者に癌ゲノム情報を提供するとともに、ゲノム科学的、ゲノム医療における最新情報を一般公開し、当該領域の社会啓発に努めている。
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